kkatayama

　先日、太宰府の九州国立博物館に「はにわ展」を観にいき、とても感銘を受けた。今日は、そのことを少し書いてみよう。

　ご承知のように、埴輪とは王の墓である古墳に立て並べられた素焼きの造形で、３世紀中ごろから７世紀にかけての古墳時代に各地で作られていた。今回の展覧会でも、東は群馬、埼玉、栃木から、西は奈良、大阪、兵庫、岡山あたりまで、広い地域で出土したものが公開されていた。壺や円筒の他にも、有名な「挂甲の武人」や、馬、鹿、犬、鳥などの動物埴輪、踊る人々、笑う男、力士といった古墳時代の「北斎漫画」を想わせるものまで、心惹かれる展示品が多かった。

　　とくに人も動物を造形したものは、どれも表情や身振りがやわらかく、やさしく、温かみを帯びている。それは命あるもののやわらかさ、やさしさ、温かみである。邪悪なもの、猛々しいものは一つもない。おそらく彼らは人や動物をそのようにとらえていたのだろう。そして自らも、そのようなものとして生きていたのだろう。武人ですら怖くない。威嚇的なところが皆無である。およそ戦闘とは結びつきそうもないし、これで警護の役目を果たせたのだろうか、と心配になるくらいだ。どうしたって当時の人々の、平和で穏やかな暮らしぶりを想わざるを得ない。

　　乾いた素焼きの土なのに艶がある。潤いさえ感じさせる。とくに目がそうだ。この素朴な二つ並んだ目の魅力を、どう言えばいいだろいう？　人の目も動物の目も、静かに遠くを見ている。そして深く澄んだ感情を湛えている。実際は火箸を突っ込んであけただけのような円い目とか、刃物でスイスイとあけたような横長の目とか、いかにも無造作で、どこにも特別な意匠は凝らされていない。また人と動物で分け隔てがない。いずれも最小限の労力、手間暇で穿たれた目は素っ気ないくらいだが、それでいてちっとも粗雑な感じを受けない。むしろ自然が造形した精妙さを感じさせる。

　そんな埴輪の魅力をひとことで言えば、まずは「おおらかさ」ということになるだろうか。今回の催しのキーワードにも「ゆるさ」というのがあった。それは第一に、当時の人々の生き方や暮らしぶりの「ゆるさ」だろう。たとえば彼らの暮らしには、厳格な暦は存在しなかったと思われる。「ひと月」という単位はあったとしても、月の満ち欠けによって、朔（月立ち）と望（もち）と晦（月隠り）くらいの区切りで済んでいたのかもしれない。また稲などの農作物を育てる人たちと、海で魚を獲る人たちとでは、別様の暦を使っていただろう。そうした彼らの暮らしの柔軟さ、ふくらみが、埴輪の「おおらかさ」にも反映している気がする。（2025.4.8）

きのうのさけびを読む