58)みずみずしいガット・ギターの響き

ネコふんじゃった
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 ときは七十年代後半、世に「フュージョン」「クロスオーバー」と呼ばれる音楽の全盛期。ガット・ギターを抱えて颯爽と登場した青年がいた。それまでガット・ギター(ナイロン弦で、基本的に指弾き)といえば、クラシックかせいぜいボサ・ノヴァで使われるのが相場であった。ところがこの青年、なにを思ったか、音も小さければ、アドリブには不向きなはずの楽器で、ジャズはもちろん、ソウル・ロック系の曲からサンバまで、ばりばり弾いて世界を驚かせた。青年の名はアール・クルー。

 現在も活躍するクルー氏だが、やはりデイブ・グルーシンの全面的なバックアップによって制作された初期の三枚が、いまだに新鮮で、ときどき聴きたくなる。なかでもこの『フィンガー・ペインティング』は、グルーシンをプロデューサー・アレンジャーに迎えての三枚目で、とりわけ完成度が高い。まず曲がいい。「ドクター・マクンバ」「キャサリン」「サマー・ソング」といったオリジナルに加えて、ジェイムス・テイラーとオーリアンズの秀逸なカバーが、アルバムに彩りを与えている。

 ドラムのスティーヴ・ガッド、ハーヴィー・メイソン、ベースのアンソニー・ジャクソン、ギターのリー・リトナーなど、グルーシンの人脈を生かして、超一流のスタジオ・ミュージシャンたちがバックを固める。一世を風靡したルイス・ジョンソンのスラッピング・ベース(当時は「チョッパー」と呼ばれていた)が、随所でかっこいいフレーズをきめる。さあ、サマー・カクテルを飲もう!(2020年8月)