77)東と西のジャズ

ネコふんじゃった
この記事は約2分で読めます。

 ジャズでいうところのリズム・セクションとは、ドラムとベース、それにピアノのこと。ここではフィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、レッド・ガーランドの三人で、このアルバムが録音された当時は、マイルス・デイヴィスのバンドのリズム・セクションを務めていた。本来は一般名詞であるリズム・セクションに、「ザ」という定冠詞をつけて、彼らが当代きってのリズム・セクションであることを示している。そこがカッコいい。

 アート・ペッパーについては、白人最高のアルト奏者という評価が定着している。麻薬による長いブランクを経て七十年代半ばに復帰、八十二年に亡くなるまで、良質のアルバムを数多く残している。でも、彼の最盛期は、やはり五十年代だろう。たとえば一九五七年に録音されたこのアルバム、アルトを吹くのは一年ぶりだったという。しかも当日は寝坊してリハーサルの時間がなかったため、みんなが知っているスタンダードの演奏になった、という逸話が残っている。かなりいい加減な人なのだ。それなのに、これだけ完璧な演奏をやってのけるのだから、アート・ペッパーもリズム・セクションもすごかった。

 ロイ・デュナンによるナチュラルでクリアな録音は、ペッパーの明るくまろやかな音色に似合っている。ニューヨークを代表するリズム・セクションと、ウェスト・コーストを代表する即興演奏家、エンジニアとの出会い。東の音と西の音、はっきりした個性をもっていた、五十年代のジャズだからこそ成立した企画であると言える。(2012年3月)