20 世界仕様、日本のロックの金字塔

ネコふんじゃった
この記事は約2分で読めます。

 大学院に進学して間もないころ、ロック好きの先輩が、「これ聴かんと後悔するばい」と言って、一枚のレコードを貸してくれた。針を落としてから最後の曲が終わるまでの四十分間。打ちのめされた。とくに「マラッカ」と「つれなのふりや」と「裸にされた街」の三曲は、頭のなかに亡霊のように住みついてしまった。しばらくは熱に浮かされたように、このレコードばかり聴いていた。
 いま冷静になって聴き直してみると、これは奇蹟的な作品だと、あらためて思う。六十年代末から積み重ねられてきた日本のロックの様々な試みが、レゲエやニューウェイブやフュージョンといった時代のトレンドとともに、パンタという一人の表現者の身体に流れ込み、作品を稀に見る高みまで引き上げた。ポリスやトーキングヘッズといった、当時のもっともすぐれたバンドの作品と比べても、まったく遜色がない。しかも日本の伝統的な感性が、ロックというスタイルのなかで、とてもしなやかに息づいている。日本人が生み出したロックのアルバムとして、表現力と音楽性と世界観が、かくも高いレベルでバランスよく融合した作品は、後にも先にもこれだけだと思う。この一枚だけで、日本のロックは成仏できる。
 アルバムがリリースされた一九七九年は、サザン・オール・スターズの「いとしのエリー」の年である。山下達郎が「ライド・オン・タイム」でブレイクする前の年でもある。サザンや達郎に比べると、知名度はずっと低いと思うけれど、彼らのファンにもぜひ聴いてもらいたい。(2007年7月)