16 カットアウト盤を探し歩いた日々

ネコふんじゃった
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 いまの人たちには馴染みがないかもしれないが、以前はカットアウト盤といって、廃盤などになったレコードをわざと傷つけ、ディスカウント商品として流通させる仕組みがあった。その名のとおり、ジャケットの片隅が少し切り取られている。なかには切れ込みを入れただけで、ほとんど傷の目立たないものもあった。通常の輸入盤より、五百円から千円くらい安かったように思う。
 大学生のころはお金がなかったので、古本屋をよく利用していた。もちろんブックオフなどなかったころである。気難しそうな親爺が、店の奥にでんと腰を据えていることが多く、乱雑に本を扱うと叱られたりした。レコードの方は、輸入盤を扱っている店でカットアウト盤を探すのが楽しかった。ビニールにくるまれたアメリカ盤は、開封すると、いがらっぽい独特の匂いがした。とにかくお金と暇さえあれば、古本屋と輸入レコード屋で時間をつぶしていたように思う。そうして手に入れた本やレコードは、同じ買い物でも、自分の眼と足で見つけたという充実感があった。
 ホール&オーツの初期の作品も、何枚かはカットアウト盤で手に入れた。まだブレイクする前で、彼らのレコードもすぐ廃盤になっていたのだろうな。なかでもこのアルバムは、ジャケットも含めていちばん気に入った一枚。フォークソングとソウルミュージックが、うまい具合にブレンドされて、いい味が出ている。二人の歌声も、明るくはつらつとしている。いまだにみずみずしさを失わない、傑作。(2007年4月)