60)北京空港で聴いたラヴェル

ネコふんじゃった
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 仕事で中国へ行ってきた。フレンドリーで温かな人たち。一週間ほどの滞在を終えて、帰国の途につくときには名残り惜しさをおぼえた。そんな気持ちを汲むかのように、北京空港は発着の飛行機で混雑し、離陸までにはあと二十分ほどかかるというアナウンス。滑走路の上で名残りを惜しんでもしょうがないんだけどな。

 機内放送のクラシック番組にチャンネルをあわせ、読みかけの文庫本を開く。すると「クープランの墓」の前奏曲が聴こえてきた。軽やかなリズム、絶妙なテンポ。粗末なヘッドセットで聴いても、間違えようがない。

 アンドレ・クリュイタンス指揮、パリ音楽院管弦楽団によるラヴェルの管弦楽曲全集を、ぼくは学生時代から愛聴してきた。この演奏の魅力をどう言えばいいだろう。フランス語だとエレガント、日本語には「粋」というぴったりな言葉がある。こういう雰囲気のある演奏は、いまどきのメカニカルなオーケストラからは、なかなか聴けなくなった気がする。

 選曲は「クープラン」の他、「古風なメヌエット」「道化師の朝の歌」など、さながらベスト・オブ・ラヴェルといったおもむき。なかでも「亡き王女のためのパヴァーヌ」の美しさは、筆舌に尽くしがたい。

 ラヴェルの管弦楽曲のほとんどは、作者自身の手によってピアノ曲からオーケストラ用に編曲されたものだ。このディスクにおさめられた曲も、すべてピアノ版が存在する。聴き比べるのも楽しいと思います。(2010年10月)