九産大講義

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現代文学として『源氏物語』を読む……第7回 近親のエロス(2)

病気の治療のため北山の行者のところへ通う道すがら若紫を見出した源氏は、幼女の面倒を見ている僧都と尼君(若紫の祖母にあたる)に「自分に世話をさせてくれ」と申し出ます。原文では「後見(うしろみ)」とあります。世話をする人という意味ですが、平安時...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第6回 近親のエロス(1)

『源氏物語』のうち光源氏を主人公とする部分(第41章「雲隠」まで)について見ると、彼にとって重要な女性は藤壺と紫の上ということになります。まさに「紫」の女性たちをめぐる物語です。そのなかで若紫との出会いの場面を見てみましょう。       ...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第5回 中の品の女

第二巻の「帚木」で光源氏は17歳になっています。4歳年上の葵の上と結婚して5年になりますが、二人のあいだには子どももなく、なんとなく疎遠な感じです。舅である左大臣家にはたまにしか顔を出さず、内裏の住まいで過ごすことの多い源氏です。  梅雨の...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第4回 物の怪(2)

今日は物の怪の二回目、六条の御息所の物の怪が源氏の正妻である葵の上を取り殺すシーンを見てみましょう。「葵」という章で、数字でいうと第9章ということになります。葵の上は妊娠しています。結婚して10年目の懐妊ですから、ようやくといったところです...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第3回 物の怪(1)

『源氏物語』には物の怪がたくさん出てきます。「物の怪」というと、皆さんのなかには宮崎駿のアニメを思い浮かべる人も多いかもしれませんね。『源氏物語』の場合、物の怪が登場するパターンはだいたいきまっていて、恋愛の挫折とか病気や死や出産の場面で現...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第2回 まぼろし

『源氏物語』は最愛の人の死からはじまります。ときの帝は一人の更衣を溺愛している。更衣は身分の低い妃で、寝殿は内裏のなかでも北東の端(淑景舎)にあります。別名桐壷と呼ばれることから、この薄幸の更衣は桐壷更衣、彼女を愛した帝は桐壷帝と呼ばれるこ...
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現代文学として『源氏物語』を読む……第1回

後期の授業では皆さんと一緒に『源氏物語』を読んでみようと思います。なぜ『源氏物語』を取り上げるかというと、まず面白いからです。なにしろ不義密通と近親相姦の話ですからね。面白くないはずがない。そこに物の怪や怪異現象が加わります。  毎年、後期...
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第6回 松尾芭蕉

1 芭蕉の生涯  寛永21年(1644年)、伊賀上野(三重県上野市)に生まれる。地侍程度の身分で、郷士(武士の待遇を受けていた農民)のようなものだったらしい。その後の年譜には不明なところが多い。父の死後、武家に仕官していたらしい。20代のこ...
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第5回 能楽~夢幻能を中心に

1 基本的な知識 約650年前の室町時代、観阿弥(1334~84)、世阿弥(1363~1443)の親子によって大成された。奈良時代に日本に入ってきた唐の大衆芸能である「散楽」が日本風に「さるごう」と呼ばれ、それが「猿楽」になったとされる。 ...
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第4回 源氏物語の世界

1.全体の構成 54巻(帖)よりなる主人公・光源氏を中心とした約70年の物語。源氏の一代記として読めば、最後の宇治十帖までは、彼が生まれ、育ち、恋をし、流謫(須磨・明石に蟄居)と昇進(准太上天皇・39歳)を経験しながら、老いて死ぬ話と言える...
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第3回 『万葉集』(後半)

6 草摘みの歌    『万葉集』には、春菜摘みの歌が数多くおさめられている。もともと草摘みは、天候の安定や豊作や村落の平穏無事などを祈願するために、共同体的秩序のもとで行われる予祝的な神事だった。この予祝は、神との約束を一定の条件のもとに満...
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第2回 『万葉集』(前半)

1 どういう書物か  日本に現存する文学的な作品として、最古のものの一つで、主に「短歌」と呼ばれる三十一音の短い詩が集められている。短歌のほかに長歌と呼ばれる、もう少し長い詩も収録されているが、この形式はほとんど『万葉集』のなかにだけ見られ...
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第1回 『古事記』とはどのような書物か

(1) 成立  ・太安万侶の「序文」によると、712年。  ・天武天皇(40代)が舎人の稗田阿礼に「帝紀」「本辞」を誦み習わせた。  ・元明天皇(43代)が太安万侶に阿礼が誦習した本を撰録して献上するように命じた。 (2) 構成  1. 上...
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総表現者宣言~新年度の開講にあたって

講義をはじめるにあたり、ぼくなりの講義のモチーフといいますが、今年は皆さんと一緒にこういうことを考えてみたい、ということをお話ししたいと思います。  いまはどういう時代か、というところから入っていきます。言うまでもなく大変な時代ですね。この...
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第7回 フィクション(3)

②童話性  つぎに宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を見てみましょう。主人公の名前はジョバンニ、親友がカムパネルラで、ザネリという同級生がいます。「いったいどこの話だ?」と思いますよね。ジョバンニはお父さんが不在で、お母さんは病気で寝ています。ジョ...
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第6回 フィクション(2)

前回にひきつづきフィクションについてお話します。フィクション(虚構)の反対はファクト(事実)です。ノンフィクションでは、あくまでファクト(事実)が重視される。事実によって書き換えられ、更新されていきます。新しい事実によって、かつての「事実」...
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第5回 フィクション(1)

これから何回かにわたって虚構、つまりフィクションの話をしようと思います。大きな本屋さんへ行くと、フィクションとノンフィクションというふうに棚を分けているところがありますね。小説はフィクションです。では、フィクションとは何か? これがなかなか...
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第4回 空間

ここ何回か、小説の構造ということで授業を進めています。最初に語り手についてお話ししました。幾つかの作品の冒頭を引用しながら、それぞれ語り手のタイプが異なることを見てきました。カフカの『変身』のように、現実には起こりえないようなことを語りだす...
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第3回 時間

今日は小説のなかの時間について話をします。ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、できるだけわかりやすくお話ししてみます。  単純なやつからいきましょう。みなさんは『今昔物語』をご存知でしょう。芥川龍之介の「鼻」が『今昔物語』の説話を題材...
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第2回 語り手

これから数回にわたり、小説の構造について少しお話します。一般に小説と言われているものが、どういった要素によって成り立っているかということですね。いろいろな説明の仕方があると思いますが、この授業では語り手、空間、それに時間という三つの要素につ...
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第1回 小説とはどのようなものか

【はじめに】  後期は主に小説というジャンルをとおして文学の話をします。小説とはどのようなものか? どんなことが、どのように書かれているのか? 過去の作品を例にとりながら具体的に考えていこうと思います。これが一回の授業の前半です。  休憩を...
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第7回 荒川修作のドキュメンタリーを観ながら、「死」について考えてみよう

この身体を自分とみなし、自分のなかになんでもかんでも、生命も意識も感情も心も、挙げ句の果てには「神」も観念だということで封じ込めることによって、死は救いのないものになります。「私以外私じゃない」を自明として生きることのサイドエフェクト、ポッ...
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第6回 カリフォルニアの旅の話から、「イノベーション」について考えてみよう

前回お話ししたように、アメリカへ行ってきました。ほとんどロサンジェルスとサンフランシスコのあいだを行ったり来たりしただけなので、「カリフォルニア」へ行ってきたと言ったほうがいいかない。楽しく刺激的な旅でした。そんな旅の話をしながら、いろんな...
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第5回 SF映画を観ながら、「未来」について考えてみよう

今回は何本かのSF映画を観ながら、人間の未来について考えてみます。いつの間にか映画や小説が描く未来は暗く悲観的なものになってしまいました。前回の人工知能のところでも出てきたように、人類の滅亡を予測する学者や金持ちもいます。  ぼくが小学生の...
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第4回 人工知能(AI)をモデルに、「人間」について考えてみよう

今回は人工知能について考えます。なぜ文芸創作の授業でAIなの? 何度も言っているように、文学というのは徹底して人間について考えるものです。ぼくはAIというのは、どこまでも人間を模倣するものだと思っています。AIが脅威になるとすれば、それは人...
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第3回 「格差社会」について、トマ・ピケティと一緒に考えてみよう。

1 格差の現在  国際援助団体オックスファム・インターナショナルは18日、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラム(ダボス会議)を前に、世界の経済格差にかんする報告書を公表した。それによると2015年、世界のもっとも豊かな1%の人たちが...
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第2回 紛争の現場から「戦争」について考えてみよう。

今回のテーマは戦争です。ええ、なぜ? と思っている人もいるでしょうね。一応、文芸創作のコースなのに? そうです。文芸創作、つまり「文学」の講座だからこそ、戦争について考える必要があるのです。文学とは何よりも人間について考えるものです。人間の...
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第1回 宮崎駿のアニメを観ながら、「表現」について考えてみよう。

これからみなさんと一緒に宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を鑑賞します。2時間くらいあるので、適当なところで止めて、その間にディスカッションを挟みながら観ていこうと思います。最後まで観られないかもしれませんが、それでもいいかなと思います。時間...