ネコふんじゃった

98)魔法のような音楽が詰まった三枚組

ジョンの死は、わけがわからなかった。それから二十一年後、ジョージが亡くなったときは純粋に悲しかった。ビートルズのアンソロジー・シリーズが完結し、これからは三人で「ビートルズ」をやっていくのだと思っていた矢先。ジョージの死によって、ぼくのなか...
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97)ポールがやって来た、ヤァ、ヤァ、ヤァ

十一年ぶりの来日である。福岡公演は二十年ぶり。その二十年前の公演は、ぼくも観にいった。ほぼ全曲一緒に歌った(歌えてしまった)自分に呆れつつ、あらためてポールとビートルズの偉大さを実感した。七十一歳になったポール。福岡での第一声は「カエッテキ...
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96)はじめて買ったロッドのアルバム

中学三年生の夏休み、ロック好きの友だちの家に遊びに行き、いつものように「何か新しいレコード買った?」とたずねると、「声が独特だから好き嫌いが分かれると思うけど、おれはすごく気に入っているんだ」と言って、彼は一枚のレコードを取り出してきた。一...
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95)数々のカバーを生んだ名盤

ミュージシャンズ・ミュージシャンという言い方をすることがある。多くのミュージシャンに影響を与え、彼らから敬愛されるミュージシャンという意味だろう。今回ご紹介するJJ・ケイルは、まさにそんな人だ。ぼくが彼の名前を最初に耳にしたのも、エリック・...
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93)17歳のデビュー・アルバム

今年の春、シュギー・オーティスの突然の来日には驚いた。もうずいぶん長く、彼の名前を耳にしなかった気がする。 アル・クーパーとのセッションに参加し、天才ギタリストと謳われたのは十五歳のとき。七十年代のはじめにエピックから発表した三枚のアルバム...
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94)夏の終わり、夕暮れの浜辺で

暑い夏は無理をせずに、デレデレと怠けて過ごすのがいつものスタイル。一ヵ月くらいは小説の執筆もお休み、まとめて本を読んだり、ノートをとったり、普段できないことをやってみる。リフレッシュにもなれば充電にもなり、一石二鳥である。  夏の読書には、...
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92)30年で4枚!

ブルー・ナイルというロマンチックな名前をもつ、グラスゴー出身の三人組の、これは1989年にリリースされたセカンド・アルバム。グループ名のとおり、悠久の川の流れを想わせる、静かで美しい音楽である。  三人はいずれもグラスゴー大学の卒業生で、プ...
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91)ニューオリンズ・ファンクの伝説的グループ

このレコードを買ったのは、大瀧詠一の『ロング・バケーション』がヒットしていたころ。なぜそんなことをおぼえているかというと、90分のカセットテープの両面に録音して、夏休みのあいだじゅう聴いていたから。1981年。オリジナル・リリース(1974...
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90)ファンクとフュージョンの絶妙なバランス

クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子と呼ばれた兄弟だが、もともとビリー・プレストンのバンドにいた人たちである。したがって音楽的にはソウルやジャズの要素が強い。でも彼らの個性を際立ったものにしているのは、やはり弟ルイスのスラップ・ベース(チョッパ...
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89)ガット・ギターの調べに寛ぐ

まずはジャケット。一歩間違うと通販の商品カタログになってしまいそうな図柄だが、計算され尽くしたデザインは、やはり大手のレコード会社のものらしく洗練されている。内容も、ジャケットそのままに甘くてお洒落。安手のイージーリスニングとは、一線を画す...
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88)内省的なフォーク・ソウル

テリー・キャリアーの音楽を一言で表現するのは難しい。一応、ジャンル的にはソウル・ミュージックになるのだろうが、アコースティック・ギターを手にうたう彼のスタイルはフォーキーでもある。やはり七十年代初めに出てきたダニー・ハサウェイやロバータ・フ...
あれも聴きたい、これも聴きたい

あれも聴きたい、これも聴きたい……⑩

バート・バカラックの10曲  バート・バカラックが亡くなった(2023年2月8日)、94歳で自然死というから大往生と言っていいだろう。傍から見ると、音楽家としても申し分のない生涯だったように思える。これだけ多くの名曲、一般のリスナーのみなら...
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87)悩めるアメリカをストレートに表現した傑作

1969年にデビューしたシカゴのアルバムは、いきなり二枚組で、その後、三作目までずっと二枚組だった。おまけに四作目にあたるカーネギー・ホールでのライブは四枚組というとんでもない代物。たしか当時、国内盤は八千円近くしたと思う。 ぼくが最初に買...
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86)シンフォニックなロック・アルバム

プロコル・ハルムといえば、デビュー・シングル「青い影」のイメージだけで語られがちだけれど、ゲイリー・ブルッカーという才能あるコンポーザー&ヴォーカリストを中心に作り上げられたアルバムは、どれもクオリティが高く、聴きどころがいっぱいだ。 オル...
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85)人類最高の交響曲

今回はクラシックのお話。ぼくが好きな交響曲はたくさんある。モーツァルトの「プラハ」と四十番、ベートーヴェンの三番、六番、九番、シューベルトの「未完成」、マーラーの九番と「大地の歌」。ブラームスの四つの交響曲も捨てがたいし、七つあるシベリウス...
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84)犬もうたっている?

ニッティ・グリッティ・ダート・バンド(NGDB)は、もともとアメリカのオールド・タイム・ミュージックを演奏するジャグ・バンドとして1960年代の半ばにスタートした。一時期はジャクソン・ブラウンもメンバーだったことがある。その後、ブルーグラス...
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83)木漏れ日のような音楽

しばらく前に『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という本が出版され、話題になったことがある。彼らはインターネットが普及するはるか以前から、自分たちの作品を著作権で囲わずに解放するとか、ライブ録音を許可するといった、現在のシェアやフ...
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82)よくぞここまで! まさに完璧な一枚

ブライアン・イーノがいたころの初期のロクシー・ミュージックは、ヴィジュアル的にも音楽的にも派手で、アイデアや実験性が先行した、頭でっかちのアマチュアっぽいバンド、という印象が強かった。  その後、イーノが脱退したのを契機に、ロクシーはブライ...
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81)おしゃれなデュオ、夏の定番

それぞれソロとして活動していたベン・ワットとトレイシー・ソーンが、いつのまにかエブリシング・バット・ザ・ガールというデュオになっていたのには、ちょっと驚いた。もともとベン・ワットは贔屓のミュージシャンだった。トレイシーのソロ・アルバムも、わ...
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80)奇蹟のデビュー・アルバム

ビネガー・ジョーなどのロック・バンドでソウルフルな咽喉を聴かせていたロバート・パーマーが、アイランド・レーベルに移籍してのソロ第一作にして最高作である。これを「奇蹟」と呼ぶのは、参加しているミュージシャンの顔ぶれの一期一会感と、さらに彼らが...
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79)「第三世界」という名のレゲエ・バンド

レゲエを聴きはじめた七〇年代の後半、ボブ・マーリーやジミー・クリフとともに、ぼくがいちばん好きになったバンドの一つが、このサード・ワールドだった。  レゲエのグループの多くは、いわゆるヴォーカル・グループで、演奏も自前でこなすというバンドは...
ぼく自身のための広告

ぼく自身のための広告(29)

29 フィリップ・ロス『さようならコロンバス』  失恋とは、世界を失うことである。世界を成り立たせていた遠近法が崩壊し、自分のまわりの風景が、うすっぺらで表面的なもの感じられる。中心を失った世界は外延され、とりとめなく、つかみどころのないも...
あれも聴きたい、これも聴きたい

あれも聴きたい、これも聴きたい……⑨

いまの自分を潤してくれる10枚 MILES DAVIS 『Kind Of Blue』 BOB DYLAN 『Blood On The Tracks』 NEIL YOUNG 『Everybody Knows This Is Nowhere』 ...
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78)「街」を感じさせるアルバム

学生のころ、休みの日の楽しみは、レコード店と古本屋をまわることだった。けっして資金は潤沢ではない。だから安いカット・アウトの輸入盤や古本を漁る。とくに古本屋は掘り出し物を求めて何軒も歩きまわる。そして一日の終わり、喫茶店でコーヒーを飲みなが...
ネコふんじゃった

77)東と西のジャズ

ジャズでいうところのリズム・セクションとは、ドラムとベース、それにピアノのこと。ここではフィリー・ジョー・ジョーンズ、ポール・チェンバース、レッド・ガーランドの三人で、このアルバムが録音された当時は、マイルス・デイヴィスのバンドのリズム・セ...
ネコふんじゃった

76)ご存知、ストーンズの最高傑作

このアルバムが発売されたのは1972年、ぼくが中学二年生のときだった。彼らにとってのみならず、ぼくにとっても、はじめて買った二枚組のレコードだった。三千円という出費は、中学生にとっては取り返しのつかない額なので、買う前にずいぶん迷ったおぼえ...
ネコふんじゃった

75)儚いまでに美しい

ニック・ドレイクは1948年に生まれて1974年に亡くなった、イギリスのシンガー・ソングライターである。二十六年の人生で、彼が残したアルバムは三枚。いずれも生前にはあまり売れなかった。そのことも彼の死を早めた要因かもしれない。うつ病に苦しん...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第7回 近親のエロス(2)

さて「若紫」の章で語られる二つのエピソードのうち、今回は若紫との経緯を見ていきましょう。まず冒頭で18歳の源氏は病気になります。「瘧病(わらはやみ)」とあり、マラリアみたいなものだったようです。彼は北山の寺にいる行者のところへ治療に通う。そ...
ネコふんじゃった

74)寒い冬の夜、炬燵のなかで

「プカプカ」の作者として知られる西岡恭蔵は、七〇年代を代表するソングライターの一人だ。彼が自作自演し、また他人に提供した名曲は数知れない。  大塚まさじ、永井ようと三人で結成した「ザ・ディラン」でデビューしたころから、彼の書く曲はすでに完成...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第6回 近親のエロス(1)

『源氏物語』のうち光源氏を主人公とする部分(第41章「雲隠」まで)について見ると、彼にとって重要な女性は藤壺と紫の上ということになります。まさに「紫」の女性たちをめぐる物語です。今回は第5章の「若紫」を見てみましょう。この帖では大きな二つの...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第5回 中の品の女

第二巻の「帚木」で光源氏は17歳になっています。4歳年上の葵の上と結婚して5年になりますが、二人のあいだには子どももなく、なんとなく疎遠な感じです。舅である左大臣家にはたまにしか顔を出さず、内裏の住まいで過ごすことの多い源氏です。  梅雨の...
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73)ピアノに魅せられた日々

もう二十年くらい前になるだろうか。ある日、突然ピアノに魅せられた。独学でハノンなどの教則本にも取り組んだけれど、なんといっても弾きたかったのはバッハだ。それでゼンオンの『クラヴィーア小曲集』という、いちばん簡単なバッハのピアノ曲集を買ってき...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第4回 物の怪(2)

今日は物の怪の二回目、六条の御息所の物の怪が源氏の正妻である葵の上を取り殺すシーンを見てみましょう。「葵」という章で、数字でいうと第9章ということになります。葵の上は妊娠しています。結婚して10年目の懐妊ですから、ようやくといったところです...
ネコふんじゃった

72)洗練された大人のポップス

まずジャケット。CDではちょっと雰囲気が出ないが、エドワード・ホッパーである。まだ日本ではほとんど紹介されていなかったころ。このジャケットのインパクトは大きかった。孤独な男と女の夜を見事に表現している。別の作品では池田満寿夫を使うなど、南佳...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第3回 物の怪(1)

『源氏物語』には物の怪がたくさん出てきます。「物の怪」というと、いまの若い人たちの多くは宮崎駿のアニメを思い浮かべるかもしれません。でもあの映画でモノノケの正体ははっきり明かされていませんよね。  古い時代には物の怪の「モノ」は物体だけでは...
創作

骨笛

少年は毎日、日が暮れると海辺に転がっている流木を集めて火を焚いた。荒波に洗われた木は、樹皮が削り取られて白い幹がむき出しになっていた。それは海に棲む巨大な生物の白骨を想わせた。漁船の燃料に使う油を、家の者に内緒で瓶に詰めて持ってきていた。細...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第2回 まぼろし

『源氏物語』は最愛の人の死からはじまります。ときの帝は一人の更衣を溺愛している。更衣は身分の低い妃で、寝殿は内裏のなかでも北東の端(淑景舎)にあります。別名桐壷と呼ばれることから、この薄幸の更衣は桐壷更衣、彼女を愛した帝は桐壷帝と呼ばれるこ...
往復書簡

往復書簡・コロナ禍のなかで(1)

森崎茂様。第一信  書簡、ありがとうございます。さっそく応答のかたちで第二信をさしあげます。これを書いているさなか、日本でもいよいよ三回目の接種がはじまりそうな流れになってきました。デルタ株が出てきて過去二回のワクチンが効かなくなったから必...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第1回

『源氏物語』は54巻(帖)よりなる主人公・光源氏を中心とした約70年の物語です。光源氏の一代記として読めば、第44巻の「雲隠れ」までは彼が生まれ、育ち、恋をし、流謫(須磨・明石に蟄居)と昇進(准太上天皇・39歳)を経験しながら、老いて死ぬ話...
往復書簡

歩く浄土278:情況論75-Live/COVID-19をめぐって「片山恭一vs森崎茂」往復書簡1

第一信・片山恭一様(2021年9月6日)     1 なにかとんでもないことが人類史の規模で起こっている気がします。この衝迫感の正体をつかみたいというのが片山さんに往復書簡を呼びかけたモチーフです。いまなにが起きているか。新しい世界システム...