宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(9)

第9話 「慈悲」について② 一口に仏教といっても、現在のタイやミャンマー、ラオス、カンボジアのような国々で信仰されているものと、中国経由で日本に入ってきた、いわゆる大乗仏教といわれるものとでは、中身がずいぶん異なるようである。釈迦牟尼ことゴ...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(8)

第8話 「慈悲」について① いかなる生けるものでも苦しんでいる限り、自分らは完全に幸福とはなりえないと感じる。修行者ほどの徹底性はないにしても、これは誰のなかにも多かれ少なかれある感覚だろう。状況にもよるけれど、いくらか気持ちに余裕のあると...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(7)

第7話 遠いともだち② 大切なことは、「遠いともだち」がみんなここに、ぼくたちのなかにいるということだ。あそこではなく、ここにいる。あそこにいる、と口にした途端にともだちは変質して別のものになってしまう。それはともだちではなくなるかもしれな...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene9 ヨセミテ国立公園 モーテルは朝食付きだが、不味いのでスルーして近くのスタバでコーヒーとベーグル、というのが旅の日課になりつつある私たちだが、今日はできるだけ早く出たいので、モーテルの食堂に用意してあるもので済ませる。シリアルに...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene8 モーテル・クロニクル 帰ってきたぞ、ビショップ。二人ともややお疲れ気味で、マンモスで紹介してもらったモーテルに車を乗り入れる。ここもインド人の家族がやっている。見たところ親父さんはほとんど戦力にならず、レジの後ろでニコニコして...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene7 オン・ザ・ロード マンザナー収容所を出たときには、すでに午後2時を過ぎていた。気温は華氏103度。摂氏に直すまでもなく暑い。Bishop という町まで走って昼食をとることにする。途中、Independenceという西部劇にでも...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺

第7話 遠いともだち② 大切なことは、「遠いともだち」がみんなここに、ぼくたちのなかにいるということだ。あそこではなく、ここにいる。あそこにいる、と口にした途端にともだちは変質して別のものになってしまう。それはともだちではなくなるかもしれな...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺

第6話 遠いともだち① 解剖学者の三木成夫さんは、「原初の細胞ができてから後の、今日までの三十数億年の長い進化の過程を、なにか幻のごとく再現する、まことに不思議な世界」こそが「胎児の世界」であるとおっしゃっている(『生命とリズム』)。三十数...
論文

死が消える場所~森崎茂さんの内包論

1 2023年1月に亡くなった森崎茂さんとは、大学院生のときに知り合い、以後、濃淡や一時の断絶はあれ40年にわたってお付き合いさせていただいた。22、3の青年が60過ぎのおじさんになる歳月、小説を書いたり他の文章を書いたりすることが、ほぼ森...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene6 マンザナー強制収容所(3) 1992年に創設されたManzanar National Historic Siteは、資料館、復元された住居棟、庭園、果樹園、慰霊塔などからなっている。ビジター・センターを兼ねる資料館には、当時の...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(6)

第6話 遠いともだち① 解剖学者の三木成夫さんは、「原初の細胞ができてから後の、今日までの三十数億年の長い進化の過程を、なにか幻のごとく再現する、まことに不思議な世界」が「胎児の世界」であるとおっしゃっている(『生命とリズム』)。三十数億年...
Senior Moter Drive

老いと自由のロードノベル|Senior Motor Drive(5)

カリフォルニアを走りながら考える老いと自由、人生の時間。ロードトリップを舞台にした文学的エッセイ。
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(5)

第5話 「小岩井農場」③ しばらく前の新聞に、シリア北部ラッカ近郊にある「国境なき医師団」支援の病院に派遣されていた看護師が現地の状況を語ったものが載っていた。 ある日の急患は父親と4歳の娘でした。先頭を歩いていたとみられる母親が手術室に来...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene4 マンザナー強制収容所(1) 砂のなかには恐竜の化石が埋まっている。本当に埋まっているのかどうか知らない。埋まっていそうな気がする。あたりを徹底的に掘りまくれば、きっと一体くらいは出てくるだろう。恐竜たちの化石の上をフリーウェイ...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(4)

第4話 「小岩井農場」② ユリアがジュラ紀に、ペムペルがペルム紀(二畳紀)に由来する名前だとすると、数億年の視野で考える必要がある。そのくらい遠いともだちなのだ。そこまで遡らないと、「わたくしはこの巨きな旅のなかの一つづりから/血みどろにな...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene3 Texas Loosey’s 現地時間の午後6時50分、ロサンゼルス国際空港。羽田を真夜中に飛び立った飛行機は、約10時間のフライトを経てロスに到着する。ターミナルを出たボブは勝手知った様子でどんどん歩いていく。私は重いスーツ...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(3)

第3話 「小岩井農場」① 少年は汽車に乗ってやってきた。ここは寂しい町の駅だ。客馬車が停まっているけれど、彼に「お乗り」と声をかけてくれる大人はいない。少年は一人でとぼとぼと歩きはじめる。道のりは遠い。畑を通り、丘の裾を抜けて歩いていく。雲...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(2)

第2話 「いちねんせい」② 谷川俊太郎の「ぱん」という詩を流れている幸福な音色は、しかし一瞬にして人々の断末魔の声に暗転しうるものだ。食物連鎖といえば聞こえはいいけれど、要するに生存競争である。万物は食べるものと食べられるものに引き裂かれて...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene2 気分を変えたいんだ 猫が死んだ。私のかわいい猫が死んでしまった。2016年5月7日午後9時15分。心臓の鼓動が弱くなり、ゆっくりと間遠になっていき、ひとつ大きく息をすると止まってしまった。自分で最期の場所と定めた寝室のソファの...
宮沢賢治の周辺

宮沢賢治の周辺(1)

第1話 「いちねんせい」① 前から気になっている谷川俊太郎の詩に「ぱん」という作品がある。1988年に刊行された『いちねんせい』という詩集に入っている。このとき作者は56~57歳。50代半ばで「いちねんせい」。いいなあ。清々しい気持ちで読ん...
Senior Moter Drive

Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中

Scene1 シンギュラリティ 砂漠。一直線の道が地平線の彼方までつづいている。視界を遮るものは何もない。視線は広大な砂漠に吸い込まれて消える。ヴァニッシング・ポイント。スモッグに覆われたロスのダウンタウンを抜けて、ものの30分も走ると、そ...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(40)

園内は奥へ行くほど遊具から何からくたびれて、この施設が長くメンテナンスをされないまま荒廃の一途をたどってきたことがうかがえた。「そろそろ引き返すか」 口では言いながらも、わたしたちは慣性の法則にでも導かれるように奥のほうへ歩いていった。そこ...
片山恭一の文学ノート

小説のために(第十一話)

1 前から気になっている谷川俊太郎の詩に「ぱん」という作品がある。1988年に刊行された『いちねんせい』という詩集に入っている。このとき作者は56~57歳。50代半ばで「いちねんせい」。いいなあ。清々しい気持ちで読んでみよう。ふんわり ふく...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(39)

レストランは営業を終えていたので、まだ開いているカフェのほうに入った。こちらもラスト・オーダーの時間が迫っている。水を持って注文を訊きにきた学生アルバイト風の男の店員に、わたしはホット・コーヒ―をたのんだ。二人はカフェ・ラテである。「ホット...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(38)

園内は奥に進むにつれてますます閑散とし、空中をのろのろ進むコースターなどはほとんど全身が麻痺しかけている。帰路を駐車場のほうへ向かう何組かの親子連れとすれ違った。みんな忌まわしい場所から早々に引き上げようとしているみたいだった。「もはや凋落...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(37)

学生たちに小説を書かせると、前世や生まれ変わり、輪廻転生などをテーマにして書いてくる者が多い。そういうところに彼らの興味は向かっているらしい。きっと現世への行き詰まり感があるのだろう。この世界には未知の可能性はどこにもなく、ただ退屈で息苦し...
片山恭一の文学ノート

小説のために(第八話)

5円空仏も木喰仏も、多くの人の手に触られ、つるつるになったり、すり減ったりしているものが多いという。距離を置いて眺めるのではなく、手で触って感触を楽しむ仏像。親しみがあって身近。村人が具合の悪いときに借り出し、枕元に置いてお祈りをしたとか、...
片山恭一の文学ノート

谷川俊太郎「いるか」を読む

『セカチュー』作家・片山恭一が、谷川俊太郎の詩「いるか」を深く読み解きます。言葉遊びのように見えて、実は表現の本質に迫る詩の魅力とは。作家ならではの視点で現代詩を楽しむ。
片山恭一の文学ノート

谷川俊太郎の詩はなぜ「嘘くさくない」のか

谷川俊太郎の詩には「作為」がない。モーツァルトの音楽のように、言葉が自然に生まれているように感じる。なぜか?『セカチュー』作家・片山恭一が、詩人と言葉の「隙間のなさ」から読み解く、嘘くさくない表現の秘密。作家ならではの視点で語る現代詩論。
片山恭一の文学ノート

谷川俊太郎と「眼差し」

谷川俊太郎の詩には「視線」や「眼差し」を扱った作品が多い。なぜこの詩人は、見ることと見られることにこだわるのか?『セカチュー』作家・片山恭一が、詩における眼差しの意味、表現の根源を探ります。俯瞰でも観察でもない「ポエムアイ」という新しい見方とは。
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(36)

土曜日だというのに、遊園地に人影はまばらだった。ジェットコースターにも機関車トーマスにも、数組の親子連れが乗っているだけだ。閉園時間が近づいているせいかもしれない。「いまどき、こういうのって流行んないのかな」舗道を歩きながら藤井茜が言った。...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(35)

13 八月中は死んだ父のことに取り紛れて忙しかった。九月になって後期課程がはじまり、最初の授業が終わったあとで、二人はいつものように研究室にやって来た。「どうだ、小説のほうは書けそうか」開口一番、わたしは高椋魁に向かって言った。「いや、まあ...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(34)

二人がまだ子どものころに、両家の親たちがきめたことらしい。許嫁の家で世話になっている彼にたいして、男は屈託もなく親しげだった。何度か男の漁具の手入れを手伝った。長い時間、二人は黙って作業をつづけた。話すことがあるはずだった。この男にも、おれ...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(33)

海辺を旋回する鳶にも、さらに低いところを飛びまわるカモメにも、波打ち際に横たわるその動物が死んでいるのか生きているのかわからなかった。横たわっている本人にもわからなかったくらいだ。 最初に感じたのは痛みだった。身体中が焼けるように痛かった。...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(32)

少年は毎日、日が暮れると海辺に転がっている流木を集めて火を焚いた。荒波に洗われた木は、樹皮が削り取られて白い幹がむき出しになっている。それは海に棲む巨大な生物の白骨を想わせた。漁船の燃料に使う油を、家の者に内緒で瓶に詰めて持ってきた。細い枝...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(31)

翌日、午後一時からはじまった葬儀は、時計で計ったように一時間で終わり、午後二時には出棺となった。父がどんな葬儀を望んだのかわからない。たずねてみたこともないけれど、おそらく葬儀専門の会館などは避けたかったはずだ。わたしもセレモニー・ホールな...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(30)

11 立秋を過ぎた八月の朝、父は亡くなった。昼前に遺体を自宅に連れて帰り、とりあえず父の弟妹と主だった仕事関係の人たちに連絡した。神奈川に住んでいる叔母は、次女か三女かが出産を控えていて参列できないということだった。自分の従妹にあたる女性が...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(29)

高椋魁は革細工職人が財布か定期券入れの仕上げでもするような手つきでパンにバターを塗っている。塗り終わったパンの端を一口齧ると、それとなく藤井茜のほうを見た。彼女は蚕が桑の葉を齧るようにレタスを齧っている。「どこか遠いところへ行きたいな」ひと...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(28)

10 翌朝、六時ごろに携帯電話の着信音で起こされる。病院からだった。父の容体が悪いという。顔を洗い、手早く支度を整えた。入院しているリハビリテーション・センターの最上階が緩和ケア病棟になっている。そこでいま自分の父親が死につつある。看護師の...
創作

蒼い狼と薄紅色の鹿(27)

あのころ自分がどんなふうにして暮らしていたのか、まったくおぼえていない。きっと自己憐憫の靄のなかで、深い悲しみとともに生きていたのだろう。家のなかに閉じこもり、一日の大半は寝ていたのかもしれない。ろくに食べず、着替えもせずに、廃人に近い状態...