Senior Moter Drive Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中 Scene4 マンザナー強制収容所(1) 砂のなかには恐竜の化石が埋まっている。本当に埋まっているのかどうか知らない。埋まっていそうな気がする。あたりを徹底的に掘りまくれば、きっと一体くらいは出てくるだろう。恐竜たちの化石の上をフリーウェイ... 2025.01.21 Senior Moter Drive
宮沢賢治の周辺 宮沢賢治の周辺(4) 第4話 「小岩井農場」② ユリアがジュラ紀に、ペムペルがペルム紀(二畳紀)に由来する名前だとすると、数億年の視野で考える必要がある。そのくらい遠いともだちなのだ。そこまで遡らないと、「わたくしはこの巨きな旅のなかの一つづりから/血みどろにな... 2025.01.19 宮沢賢治の周辺
Senior Moter Drive Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中 Scene3 Texas Loosey’s 現地時間の午後6時50分、ロサンゼルス国際空港。羽田を真夜中に飛び立った飛行機は、約10時間のフライトを経てロスに到着する。ターミナルを出たボブは勝手知った様子でどんどん歩いていく。私は重いスーツ... 2025.01.13 Senior Moter Drive
宮沢賢治の周辺 宮沢賢治の周辺(3) 第3話 「小岩井農場」① 少年は汽車に乗ってやってきた。ここは寂しい町の駅だ。客馬車が停まっているけれど、彼に「お乗り」と声をかけてくれる大人はいない。少年は一人でとぼとぼと歩きはじめる。道のりは遠い。畑を通り、丘の裾を抜けて歩いていく。雲... 2025.01.11 宮沢賢治の周辺
宮沢賢治の周辺 宮沢賢治の周辺(2) 第2話 「いちねんせい」② 谷川俊太郎の「ぱん」という詩を流れている幸福な音色は、しかし一瞬にして人々の断末魔の声に暗転しうるものだ。食物連鎖といえば聞こえはいいけれど、要するに生存競争である。万物は食べるものと食べられるものに引き裂かれて... 2025.01.10 宮沢賢治の周辺
Senior Moter Drive Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中 Scene2 気分を変えたいんだ 猫が死んだ。私のかわいい猫が死んでしまった。2016年5月7日午後9時15分。心臓の鼓動が弱くなり、ゆっくりと間遠になっていき、ひとつ大きく息をすると止まってしまった。自分で最期の場所と定めた寝室のソファの... 2025.01.07 Senior Moter Drive
宮沢賢治の周辺 宮沢賢治の周辺(1) 第1話 「いちねんせい」① 前から気になっている谷川俊太郎の詩に「ぱん」という作品がある。1988年に刊行された『いちねんせい』という詩集に入っている。このとき作者は56~57歳。50代半ばで「いちねんせい」。いいなあ。清々しい気持ちで読ん... 2025.01.05 宮沢賢治の周辺
Senior Moter Drive Senior Moter Drive ~ ただいまカリフォルニアを走行中 Scene1 シンギュラリティ 砂漠。一直線の道が地平線の彼方までつづいている。視界を遮るものは何もない。視線は広大な砂漠に吸い込まれて消える。ヴァニッシング・ポイント。スモッグに覆われたロスのダウンタウンを抜けて、ものの30分も走ると、そ... 2025.01.02 Senior Moter Drive
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(40) 園内は奥へ行くほど遊具から何からくたびれて、この施設が長くメンテナンスをされないまま荒廃の一途をたどってきたことがうかがえた。「そろそろ引き返すか」 口では言いながらも、わたしたちは慣性の法則にでも導かれるように奥のほうへ歩いていった。そこ... 2024.11.27 創作
小説のために 小説のために(第十一話) 1 前から気になっている谷川俊太郎の詩に「ぱん」という作品がある。1988年に刊行された『いちねんせい』という詩集に入っている。このとき作者は56~57歳。50代半ばで「いちねんせい」。いいなあ。清々しい気持ちで読んでみよう。ふんわり ふく... 2024.11.27 小説のために
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(39) レストランは営業を終えていたので、まだ開いているカフェのほうに入った。こちらもラスト・オーダーの時間が迫っている。水を持って注文を訊きにきた学生アルバイト風の男の店員に、わたしはホット・コーヒ―をたのんだ。二人はカフェ・ラテである。「ホット... 2024.11.27 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(38) 園内は奥に進むにつれてますます閑散とし、空中をのろのろ進むコースターなどはほとんど全身が麻痺しかけている。帰路を駐車場のほうへ向かう何組かの親子連れとすれ違った。みんな忌まわしい場所から早々に引き上げようとしているみたいだった。「もはや凋落... 2024.11.26 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(37) 学生たちに小説を書かせると、前世や生まれ変わり、輪廻転生などをテーマにして書いてくる者が多い。そういうところに彼らの興味は向かっているらしい。きっと現世への行き詰まり感があるのだろう。この世界には未知の可能性はどこにもなく、ただ退屈で息苦し... 2024.11.25 創作
小説のために 小説のために(第八話) 5円空仏も木喰仏も、多くの人の手に触られ、つるつるになったり、すり減ったりしているものが多いという。距離を置いて眺めるのではなく、手で触って感触を楽しむ仏像。親しみがあって身近。村人が具合の悪いときに借り出し、枕元に置いてお祈りをしたとか、... 2024.11.23 小説のために
小説のために 小説のために(第七話) 4谷川俊太郎の詩はおかしい。なんかヘンだ。どうしてこんなものができちゃったんだろう、と思わせる詩がある。作ったというよりはできちゃった。うっかりこの世に誕生してしまった。まるで詩人と言葉が一夜の過ちを犯したかのような、その副産物としての詩。... 2024.11.22 小説のために
小説のために 小説のために(第六話) 3谷川俊太郎の詩を読んで感じるのは、ひとことで言うと「嘘くさくない」ということだ。賢しらさを感じさせないというか、殊更に作りましたという痕跡が希薄である。たしかに作ってはいるのだけれど作為を感じさせない。言葉が自然に生まれているような感じを... 2024.11.21 小説のために
小説のために 小説のために(第五話) 1 しばらく前から谷川俊太郎の詩集を、気が向いたときにぱらぱらとめくっている。このエッセーでは「眼差し」について書いてきたが、この詩人の作品にも「視線」や「眼差し」について触れたものが多い。集中的に読んでいるわけではないので、ごく散漫な印象... 2024.11.20 小説のために
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(36) 土曜日だというのに、遊園地に人影はまばらだった。ジェットコースターにも機関車トーマスにも、数組の親子連れが乗っているだけだ。閉園時間が近づいているせいかもしれない。「いまどき、こういうのって流行んないのかな」舗道を歩きながら藤井茜が言った。... 2024.11.18 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(35) 13 八月中は死んだ父のことに取り紛れて忙しかった。九月になって後期課程がはじまり、最初の授業が終わったあとで、二人はいつものように研究室にやって来た。「どうだ、小説のほうは書けそうか」開口一番、わたしは高椋魁に向かって言った。「いや、まあ... 2024.11.17 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(34) 二人がまだ子どものころに、両家の親たちがきめたことらしい。許嫁の家で世話になっている彼にたいして、男は屈託もなく親しげだった。何度か男の漁具の手入れを手伝った。長い時間、二人は黙って作業をつづけた。話すことがあるはずだった。この男にも、おれ... 2024.11.13 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(33) 海辺を旋回する鳶にも、さらに低いところを飛びまわるカモメにも、波打ち際に横たわるその動物が死んでいるのか生きているのかわからなかった。横たわっている本人にもわからなかったくらいだ。 最初に感じたのは痛みだった。身体中が焼けるように痛かった。... 2024.10.29 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(32) 少年は毎日、日が暮れると海辺に転がっている流木を集めて火を焚いた。荒波に洗われた木は、樹皮が削り取られて白い幹がむき出しになっている。それは海に棲む巨大な生物の白骨を想わせた。漁船の燃料に使う油を、家の者に内緒で瓶に詰めて持ってきた。細い枝... 2024.10.24 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(31) 翌日、午後一時からはじまった葬儀は、時計で計ったように一時間で終わり、午後二時には出棺となった。父がどんな葬儀を望んだのかわからない。たずねてみたこともないけれど、おそらく葬儀専門の会館などは避けたかったはずだ。わたしもセレモニー・ホールな... 2024.10.22 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(30) 11 立秋を過ぎた八月の朝、父は亡くなった。昼前に遺体を自宅に連れて帰り、とりあえず父の弟妹と主だった仕事関係の人たちに連絡した。神奈川に住んでいる叔母は、次女か三女かが出産を控えていて参列できないということだった。自分の従妹にあたる女性が... 2024.10.01 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(29) 高椋魁は革細工職人が財布か定期券入れの仕上げでもするような手つきでパンにバターを塗っている。塗り終わったパンの端を一口齧ると、それとなく藤井茜のほうを見た。彼女は蚕が桑の葉を齧るようにレタスを齧っている。「どこか遠いところへ行きたいな」ひと... 2024.09.24 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(28) 10 翌朝、六時ごろに携帯電話の着信音で起こされる。病院からだった。父の容体が悪いという。顔を洗い、手早く支度を整えた。入院しているリハビリテーション・センターの最上階が緩和ケア病棟になっている。そこでいま自分の父親が死につつある。看護師の... 2024.09.20 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(27) あのころ自分がどんなふうにして暮らしていたのか、まったくおぼえていない。きっと自己憐憫の靄のなかで、深い悲しみとともに生きていたのだろう。家のなかに閉じこもり、一日の大半は寝ていたのかもしれない。ろくに食べず、着替えもせずに、廃人に近い状態... 2024.09.10 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(26) 突然、何もかもが変わり、とんでもなくひどいものになってしまった。忘我にも似た幸福に包まれていた者たちが、ほんのひと月後には二度と会うことのできない、遠く隔てられた場所へ押し流されていた。最終的に彼女の死亡を確認したのは、震災の発生から何ヵ月... 2024.09.07 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(25) ほんのひと月ほど前のことだ。このあたりに建っていたアパートの一室で、わたしたちは一つの布団に入っていた。まわりの世界は消え去ったように感じられた。時間からも切り離されたところにいた。騒々しい世界の外、過去も未来もない場所に二人きりでいた。 ... 2024.09.04 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(24) 9 ある日、地下のはるか深いところで異変が起こる。物理的にはごく小さな出来事、断層がほんの一メートルか二メートルずれるといった程度のことだ。この微小な動きが北東と西南へ向かって連動し、筋状に街を破壊していった。百五十万の都市で約三十万人が生... 2024.09.01 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(23) 二人はまるで事前にブリーフィングでもしてきたみたいに、ぴったり歩調を合わせてシメジとポルチーノのトマト・パスタを食べ終えた。いまは点心系の中華総菜を細々とつついている。ウーロン茶でも淹れてやるべきなのだろうか、あいにくそんな健全なものは置い... 2024.08.25 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(22) レシピには弱火でじっくり三十分くらい炒めると書いてある。なんと、三分ではなくて三十分である! 誰がそんな悠長なことをやっていられるものか。残された人生の時間は限られている。開けたワインはすぐにグラスに注いで飲むべきである。だいたいオープナー... 2024.08.23 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(21) マンションはオール電化になっている。原子力発電は実用化のめどが立たない粗悪な技術と考えているわたしとしては気に入らないところだが、建物全体の仕様がそうなっているのだからしょうがない。IHヒーターにコーヒー・ポットをかけたところで藤井茜がたず... 2024.08.21 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(20) 午後三時に香椎駅で二人をピックアップした。車でアイランドシティへ向かい、途中のフード・マーケットで酒と食材を買っていくことにした。ここは酒も食材もたいしたものは置いていないのに、なぜかチーズだけは充実している。わたしは日本酒にもワインにも合... 2024.08.18 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(19) 8 マンションは西戸崎にある。海の中道線というJRの終着駅から少し行ったところで、目の前は博多湾だ。三階の部屋から眼下に見える砂浜には、いつも大小の波が打ち寄せており、朝や夕暮れ時には犬を散歩させたりジョギングしたりする人たちの姿が見られた... 2024.08.17 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(18) 最後に会ったのは十二月だった。クリスマスを過ぎて、大学は冬休みに入っていた。彼女のアパートは男子禁制で、六つある部屋には同じ女子大へ通う学生ばかりが住んでいた。わたしが訪れたときには彼女を含めて二、三人が残っているだけだったが、それでも用心... 2024.08.12 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(17) 7 1990年代には、まだ多くの人が頻繁に手紙を書いていた。スマートフォンはおろか携帯電話もわたしのまわりでは目にしなかった。インターネットもほとんど普及していなかった。新しいテクノロジーの到来には間に合わなかった。わたしたちは携帯電話もメ... 2024.08.08 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(16) 日がすっかり落ちてから、二人は高椋魁のアパートを出た。最寄りの駅から藤井茜はJRで家に帰る。途中で公園に立ち寄った。小さな池のまわりに桜が植えられ、数分もあれば一周できるほどの遊歩道が整備されている。池の向こうに茶碗を伏せたような築山が見え... 2024.08.06 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(15) 話は六年前、彼が十三歳のときにさかのぼる。本人の言によれば自殺未遂だが、トラックの運転手からの通報を受けて現場に駆け付けた救急隊員も、また現場検証をした警察官たちも、少年が自転車の操縦を誤ったことによる事故とみなした。とくに両親は「事故」に... 2024.08.05 創作
創作 蒼い狼と薄紅色の鹿(14) 6 オート・ハープという楽器をご存知だろうか。ハープという名前がついているけれど形状は洗濯板に近い。長方形の木箱に弦が張ってある。弦の数は三十六から七というから、このあたりはハープに近いだろうか。二十一のコード・バーが付いていて、バーを押し... 2024.08.04 創作