九産大講義

第3回 時間

今日は小説のなかの時間について話をします。ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、できるだけわかりやすくお話ししてみます。  単純なやつからいきましょう。みなさんは『今昔物語』をご存知でしょう。芥川龍之介の「鼻」が『今昔物語』の説話を題材...
九産大講義

第2回 語り手

これから数回にわたり、小説の構造について少しお話します。一般に小説と言われているものが、どういった要素によって成り立っているかということですね。いろいろな説明の仕方があると思いますが、この授業では語り手、空間、それに時間という三つの要素につ...
講演原稿

家族として見た世界~人がつながること

今日は家族についてお話しします。まず家族というものを、どういうところでとらえればいいか。実体としての家族、現象としての家族、あるいは文学、思想としての家族。いろいろな切り口で家族を語ることができます。そこで家族というものを象徴する出来事と言...
ネコふんじゃった

10 いつかはジョアン・ジルベルトのように

年に数回、仕事で東京へ行くことがある。出版社が近いので、たいてい一日は、御茶ノ水から神保町の界隈をうろうろする。あのあたりって、どうしてカレー屋と楽器店が多いのだろう。過日、そんな中古楽器店の一つにふらりと足を踏み入れた。スペイン製のクラシ...
九産大講義

第1回 小説とはどのようなものか

【はじめに】  後期は主に小説というジャンルをとおして文学の話をします。小説とはどのようなものか? どんなことが、どのように書かれているのか? 過去の作品を例にとりながら具体的に考えていこうと思います。これが一回の授業の前半です。  休憩を...
ネコふんじゃった

9 地球にやさしいショーターのサックス

農学部の学生だったぼくたちは、三年生の夏に北海道研修旅行があった。帯広で乳牛に蹴飛ばされたり、中標津あたりで道産子に追いかけられたり、札幌でラーメンまみれの食生活を送ったりして、ぼくはすっかりスケールの大きな人間となり、髪も髭も伸び放題、ワ...
最新作を語る

『新しい鳥たち』について

最近、ときどきモーセの十戒のことを考える。ISなどによるテロが身近に報じられるようになった、ここ二年くらいのことだと思う。  『旧約聖書』の舞台は、まさにISやボコ・ハラムみたいな「ならず者」たちが跋扈している荒野である。力に物を言わせて乱...
ネコふんじゃった

8 岡倉天心もびっくり、一期一会の音楽

その昔、ジャズ・クルセイダーズというバンドがありました。ジュニア・ハイスクール仲間だった四人がバンドを結成したのは一九五二年といいますから、とんでもない昔です。七十年代はじめ、バンド名をシンプルに「クルセイダーズ」と改め、ファンクやR&B色...
九産大講義

第7回 荒川修作のドキュメンタリーを観ながら、「死」について考えてみよう

この身体を自分とみなし、自分のなかになんでもかんでも、生命も意識も感情も心も、挙げ句の果てには「神」も観念だということで封じ込めることによって、死は救いのないものになります。「私以外私じゃない」を自明として生きることのサイドエフェクト、ポッ...
九産大講義

第6回 カリフォルニアの旅の話から、「イノベーション」について考えてみよう

前回お話ししたように、アメリカへ行ってきました。ほとんどロサンジェルスとサンフランシスコのあいだを行ったり来たりしただけなので、「カリフォルニア」へ行ってきたと言ったほうがいいかない。楽しく刺激的な旅でした。そんな旅の話をしながら、いろんな...
ネコふんじゃった

7 音の飛ぶ「ペグ」を聴いていたころ

学生のころ、同じ下宿に財前君という友だちが住んでいた。二人ともロックが好きだったので、新しいレコードを買うと、お互いに貸したり借りたりしていた。借りたレコードはテープに録音して楽しむ、というのが一つのスタイルだった。あと、FMラジオからのエ...
九産大講義

第5回 SF映画を観ながら、「未来」について考えてみよう

今回は何本かのSF映画を観ながら、人間の未来について考えてみます。いつの間にか映画や小説が描く未来は暗く悲観的なものになってしまいました。前回の人工知能のところでも出てきたように、人類の滅亡を予測する学者や金持ちもいます。  ぼくが小学生の...
ネコふんじゃった

6 トム・ジョビンは白湯の味?

一年半ほど前から気功の教室に通っている。ぼくが教わっている先生のモットーは、「無理をしない、がんばらない」という、間違っても校訓などにはならないような代物だ。そんなところも自分には合っていると思うので、案外長つづきしそうな気がしている。  ...
九産大講義

第4回 人工知能(AI)をモデルに、「人間」について考えてみよう

今回は人工知能について考えます。なぜ文芸創作の授業でAIなの? 何度も言っているように、文学というのは徹底して人間について考えるものです。ぼくはAIというのは、どこまでも人間を模倣するものだと思っています。AIが脅威になるとすれば、それは人...
ネコふんじゃった

5 グールドの演奏する小さなバッハ

いちばん好きな楽器はピアノ。だからクラシックとジャズを問わず、ピアニストたちのCDはたくさん持っている。なかでもグレン・グールドのバッハは特別だ。どんなふうに特別かというと……。  本を出版するまでの行程の一つに、校正という作業がある。ぼく...
九産大講義

第3回 「格差社会」について、トマ・ピケティと一緒に考えてみよう。

1 格差の現在  国際援助団体オックスファム・インターナショナルは18日、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラム(ダボス会議)を前に、世界の経済格差にかんする報告書を公表した。それによると2015年、世界のもっとも豊かな1%の人たちが...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part7)

k:一応、最終回ということにしよう。このままつづけていると、本体の小説よりも長くなってしまいそうだ。これから先のことを聞かせてください。新しい小説のプランとか。 K:その前に、前回の最後で「小説そのものに力がない。本当の希望になっていない」...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part6)

k:猫が死んだって? K:そうなんだよ。フクちゃんという7つの女の子なんだ。公園に捨てられていたのを、仕事帰りの長男が拾ってきて飼いはじめた。「フクちゃん」という名前は次男がつけた。長男はいま大阪にいるんだけど、連休で帰省するのを待っていた...
九産大講義

第2回 紛争の現場から「戦争」について考えてみよう。

今回のテーマは戦争です。ええ、なぜ? と思っている人もいるでしょうね。一応、文芸創作のコースなのに? そうです。文芸創作、つまり「文学」の講座だからこそ、戦争について考える必要があるのです。文学とは何よりも人間について考えるものです。人間の...
未分類

猫が死んだ

猫が死んだ。ぼくのかわいい猫が死んでしまった。心臓の鼓動が弱くなり、ゆっくりと間遠になっていき、ひとつ大きく息をすると止まってしまった。自分で最期の場所と定めた寝室のソファの下から、猫は真っ黒い大きな目でぼくを見つめたまま、どこかへ行ってし...
ネコふんじゃった

4 春には花の苗を植えて

今年の冬は寒さが厳しく、雪もたくさん降ったりして、なかなか手ごわかった。梅も水仙も、例年にくらべて開花が遅れているとか。でも三月を過ぎると、さすがに暖かい日も増えてくる。朝六時ごろに起きてカーテンをあける。東の空が白っぽく明るんでいる。その...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part5)

k:どうしてボブ・ディランだったの。 K:ちょっと回り道になるけど、最初から話すとね、原発事故が起こって、まず考えたのは福島の子どもたちのことだった。きっと不安を抱えて生きているだろうなって。放射能の影響について、たくさん情報が入ってくるか...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part4)

K:行き詰まったってことは、別の言い方をすると、何を書いても人間にたいする呪詛にしかならないってことだ。ぼくらはヨーロッパ的な思考のなかでしか、人間を考えてこなかった。そもそも「人間」という概念からして、近代ヨーロッパのものだしね。「人間」...
九産大講義

第1回 宮崎駿のアニメを観ながら、「表現」について考えてみよう。

これからみなさんと一緒に宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を鑑賞します。2時間くらいあるので、適当なところで止めて、その間にディスカッションを挟みながら観ていこうと思います。最後まで観られないかもしれませんが、それでもいいかなと思います。時間...
みなさんへのお知らせ

ご挨拶

このたびオフィシャル・サイトを開設いたしました。以前に『片山恭一書店』というサイトをやっていましたが、こちらは運営会社を経由したものなので不如意なことも多く、長く開店休業の状態にあります。こうした状況を見かねて、ぼくの師匠でもあるフォトグラ...
ネコふんじゃった

3 ポール・サイモンとフランク・ロイド・ライト

中学一年生のときに、はじめてサイモン&ガーファンクルのシングルを買った。「コンドルは飛んで行く」だったと思う。いや、「バイ・バイ・ラブ」だったかな。どちらかのB面が「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」で、ぼくはこの曲がすっかり気に入ってし...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part3)

K:福島の原発事故はショックだった。この事故をどう考えればいいのか。とにかく勉強しなくてはと思った。それでマルクスの『資本論』を読み返しはじめた。 k:どうしてマルクスだったの。 K:別に誰でもよかったんだけど、すべてを根本的に考え直さなけ...
勝手にゴダール

勝手にゴダール take2

ゴダールの映画って、日本ではどのくらい公開されているんだろう。半分くらいかなと思って調べてみると、主要な作品はほとんど公開されている。さすがに配給会社はATGとかフランス映画社とかマイナーなところが多いけれど、『中国女』も『東風』もちゃんと...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part2)

k:執筆の動機を教えてください。 K:急に他人行儀になるね。 k:もともと一人でやってるわけだから、他人行儀にならないと差別化できないだろう。 K:じゃあこうしよう。きみは一人称に「わたし」を使う。ぼくは「ぼく」を使う。これでちゃんと差別化...
最新作を語る

新作『なにもないことが多すぎる』を語る(Part1)

k:タイトル変更があったんだって。 K:そう。4月刊行予定で3月に入ってからの変更だから、かなり土壇場だよね。プルーフ版はもとのタイトルで配られてたと思うよ。 k:『ブルーにこんがらがって』だったよね。それが『なにもないことが多すぎる』に。...
ネコふんじゃった

2 曇りのち晴れ、ときどきネコ

飼い猫の名前は「ヒース」、と聞いて「ああ、『嵐が丘』か」と思われたあなた、するどいけれどハズレです。出典は吉田秋生さんの『カリフォルニア物語』。  一歳半のアメリカン・ショートヘア(♂)で、幼少のころは名前にふさわしく、なかなかに凛々しい顔...
あの本、この本

あの本、この本……2 国防と安全保障について、日本が最優先で考えるべきこと。

安保法制をめぐる伊勢崎賢治さんの苛立ちは、安保法制によって自衛隊を海外に送ろうとしている側(安倍政権)にも、これに反対している側(反安倍や護憲など)にも、ともに向けられている。その批判は、つぎの二点に要約できるだろう。 1.国際情勢の流動化...
あの本、この本

あの本、この本……1 これを読まなきゃ憲法論議ははじまらない。

著者の伊勢崎賢治さんは、NGO・国連職員として東チモールやシエラレオネなどで紛争処理、武装解除の仕事をした実務家である。去年(2015年7月)の衆議院平和安全特別委員会における意見陳述でも、とても真っ当な発言をしていた。  彼の本を読んだの...
勝手にゴダール

勝手にゴダール take1

1  ゴダールというのは不思議な作家だ。彼の映画を観ている人に比べて、彼や彼の作品について書かれたもののほうが圧倒的に多い気がする。調べたわけではないけれど、そういう印象である。ぼくもまた、その一人になろうとしている。ゴダールの映画を全部観...
みなさんへのお知らせ

愛について、なお語るべきこと(つづき)

2012年9月にこの本を上梓したとき、書店とメディア向けに本の紹介をしました。そのときに話したことの原稿が出てきましたので、ちょっと長いですがご紹介します。 『愛について、なお語るべきこと』について語るべきこと               ...
ネコふんじゃった

1 冬の夜はビル・エヴァンスを聴きながら

朝は六時から七時のあいだに起きて、ヨーグルトと季節の果物と豆乳の朝食、コーヒーを淹れ、まずはCDを一枚。これで心身の状態がわかる。コーヒーが美味しく、聴きたいCDがすぐに見つかる日は調子がいい。八時ごろから仕事をはじめ、十時に緑茶を淹れて一...
みなさんへのお知らせ

『愛について、なお語るべきこと』

現在のところ最新の長編小説である『愛について、なお語るべきこと』が小学館文庫になりました。友人の白石文郎さんが秀逸な解説文を書いてくれています。ありがたい! 北澤平祐さんのカバーイラストがとてもチャーミング。上下巻で1300円ほどとお求めや...