医学の常識・非常識(1)

医学の常識・非常識
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(1)がん検診をめぐる常識・非常識

【前立腺がん】
・アメリカで実施された比較試験(約8万人の男子が対象)では、無検査・放置群とPSA(前立腺特異抗原)検診とを比べた結果、検診群の前立腺がん死亡数は減らなかった。(JNCI 2012;104:125)
・ヨーロッパで実施された比較試験(18万人の男子が対象)では、PSA検診群の前立腺がん死亡数が少し減った一方、総死亡数は不変だった。(N Engl J Med 2012;366:981)
・これらのデータから、アメリカでは2012年に政府の予防医学作業部会が「前立腺がん検診への反対を奨励する」と表明。またカナダ政府の予防医学作業部会は2014年に「すべての年齢の男性に前立腺がん検診を受けないことを奨励する」と発表した。

【乳がん】
・コネティカット州の統計では、1940年以降、乳がんの発見数は増える一方で、乳がんの死亡数は横ばい。(N Engl J Med 1992;327:319)
・2000年、過去に欧米で8件実施されたマンモ検診の比較試験を再点検したデンマークの医学者らが、医学雑誌に「マンモ検診は乳がん死亡や総死亡を減らさないか、もしくは増加させる」と発表した。(Lancet 2000;355:129)
・これをうけて2009年にアメリカ政府の予防医学作業部会が、エックス線検査(マンモグラフィ)による乳がん検診は奨励しないと発表した。
・またスイスの医療政策を審議する医療委員会は、2014年に乳がん検診の廃止を提言した。

【大腸がん】
・年齢別の大腸がんによる死亡率(10万人あたりの死亡数)は、1975年から2014年までほぼ横ばいで推移している。(国立がん研究センター がん対策情報センター)
(註:高齢者の急増によって大腸がんの死亡率が高くなっているということ。)

【肺がん】
・肺がん検診を受けることによる肺がん死亡者のアメリカでの比較試験。放置群の115人にたいして検診群では122人。検診群での肺がん死亡数が微増している。(JOccup Med 1986;28:746)
・胸部エックス線撮影の効果を調べるチェコでの比較検査。肺がん死亡数は放置群が47人、検診群が64人。総死亡数も放置群の293人にたいして検診群では341人と少し多い。(Int J cancer 1990;45:26)
(註:こうした結果をうけて、欧米諸国では肺がん検診は実施されていない。)

【胃がん】
・日本では胃がんの発見数は増えているが、死亡数はほぼ横ばい。1975年から2012年のデータ。(国立がん研究センター がん対策情報センター)
(註:胃がん検診によって胃がんによる死亡数は減っていない。つまり胃がんの早期発見は意味がないということ。)

【卵巣がん】
・アメリカで8万人弱の女性を二班に分けて行われた比較試験。超音波などの検査を定期的におこなった検査群と、自覚症状が生じるまで放置した放置群を比べた結果、卵巣がんの発見数は検査群で212人、放置群で176人と検査群のほうが多かったが、死亡数も検査群(118人)のほうが放置群(100人)よりも多かった。(JAMA 2011;305:2295)
・イギリスで20万人を対象として実施された比較試験でも、超音波検査などによる検診群では、卵巣がんの発見数は増えたが、卵巣がんによる死亡数と総死亡数は放置群と同じだった。(Lancet 2016;387:945)

近藤誠『健康診断は受けてはいけない』(文春新書)よりデータだけを抽出。