このアルバムを最初に聴いたのは高校二年生の冬、友だちのY君の家だった。部屋の隅では、石油ストーブが燃えていた。ちょっとお腹が減ったので、Y君がゆで卵をつくってくれた。コーヒーを淹れて準備完了。レコードに針を下ろす、一曲目の「愛のゆくえ」がはじまる。ぼくたちは卵の殻を剥きながらレコードを聴きつづけた。曲が進むにつれて、部屋のなかがヒートアップしていく。ぼくには音楽の熱気が、部屋の温度を上げているように思えた。
発売は一九七一年、A面がロサンゼルス、B面がニューヨークでのライブ録音である。生まれた瞬間から、歴史的な名盤であることを約束された作品。その名声はビニール盤からCDに媒体が変わっても、まったく揺らぐことがない。それほど、ここで聴かれる演奏は時代を超えて圧倒的だ。まずダニーの歌とエレピが熱い。「きみの友だち」(キャロル・キング)や「ジェラス・ガイ」(ジョン・レノン)といったカバーのセンスも最高だ。さらにバックのミュージシャンたちの演奏も、これ以上は望みようがない。ソウル、ジャズ、ロック、クラシック……様々な音楽の要素を取り入れ、まさにワン・アンド・オンリーの世界を作り上げている。
ちなみにA面にはフィル・アップチャーチが、B面にはコーネル・デュプリーが、それぞれギタリストとして参加している。ベースのウィリー・ウィークスとともに、後にフュージョンというジャンルで一時代を築く人たちだ。そういう意味で、ぼくにとっては新しい音楽の世界へ扉を開いてくれた作品でもあった。(2008年10月)
36 生まれたときから、ずっと名盤
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