学生のころ、同じ下宿に財前君という友だちが住んでいた。二人ともロックが好きだったので、新しいレコードを買うと、お互いに貸したり借りたりしていた。借りたレコードはテープに録音して楽しむ、というのが一つのスタイルだった。あと、FMラジオからのエアーチェックという手もあった。だから性能のいいカセットデッキとチューナーは、当時の音楽好きには必需品だった。
このスティーリー・ダンのレコードも財前君が持っていた。それを借りてテープに録音したものを、ずっと聴いていた。四曲目の「ペグ」、ジェイ・グレイドンのギター・ソロの途中で音が飛んでいる。レコードでは、よくある出来事。いや、本当はあってはいけないのだけれど、安普請の下宿だから仕方ない。ちょっとした振動が、ミシミシいう畳に増幅されてターンテーブルに伝わり、いとも簡単に針が飛んでしまうのである。それがそのまま録音されてしまった。
いまはCD、最新のリマスター盤で聴いている。でも「ペグ」のギター・ソロになると、音が飛びそうで心配だ。もうすぐ、あと少し……と身構えてしまう。もちろんCDだから音は飛ばない。でも音の飛ばない「ペグ」は、正しい「ペグ」ではないような気がしてしまう。ヘンなの。
曲の良さでは前作『幻想の摩天楼』、サウンドの緻密さでは次の『ガウチョ』、演奏のダイナミズムでは本作、というのが現在のぼくの評価。山口小夜子のジャケットもイケてます。(2006年7月)
7 音の飛ぶ「ペグ」を聴いていたころ
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