ポール・デスモンドというと、条件反射的に「テイク・ファイブ」の人ということになってしまうのは、致し方ないことかもしれない。彼の名前は知らなくても、あのメロディを耳にすれば、大半の人が「ああ、この曲か」となるはずである。ちなみに初演は、デイブ・ブルーベック・カルテットの『タイム・アウト』、言わずと知れた名盤ですね。
さて、ブルーベック・カルテットが解散した六十年代の後半以降、デスモンドは精力的にソロ作を吹き込む。その最初のピークが、ミルトン・ナシメントとエドゥ・ロボの曲を取り上げた『フロム・ザ・ホット・アフタヌーン』だとすれば、晩年の傑作が、この『ピュア・デスモンド』だろう。同じカルテットでも、ピアノのかわりにギターが入っているところがポイントである。彼のアルトには、こちらの編成の方がふさわしい気がする。
演奏されている曲は、いずれも有名なスタンダードだが、ここでは耳慣れた曲がとても新鮮に聞こえる。クールで洗練された響きのなかに、深い情感がこめられている。翌七十五年に、同じ編成で録音されたトロントでのライブ盤も素晴らしい。生涯最高とも言える名演を残して、七十七年、デスモンドは癌のために他界。享年五十二歳。
ちなみに現行の『ピュア・デスモンド』には、ボーナス・トラックとして「ウェイブ」と「マッシュのテーマ」が入っている。ともに彼にはぴったりの曲。とくに後者は、ビル・エヴァンスの名演を思い起こさずにはいられない。(2008年7月)
33 いつもクールなデスモンドのサックス
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