56 仲間たちの死を乗り越えて

ネコふんじゃった
この記事は約2分で読めます。

 ロックという音楽の特徴の一つが、スピード感にあることは間違いない。若さとエネルギーに溢れたテンポとリズムがもたらす爽快さは、クラシックやジャズでは得られない魅力だ。これはロック・ミュージシャンの生き方にもつながっている。生から死へと疾走していったミュージシャンも、かつては多かった。

 オールマン・ブラザーズ・バンドの看板ギタリスト、デュエイン・オールマンがオートバイ事故で亡くなったのは一九七一年の十月、傑作『フィルモア・イースト・ライブ』につづく新作のレコーディング中だった。アルバムの完成は残されたメンバーの手にゆだねられ、翌年、『イート・ア・ピーチ』としてリリースされる。ところがデュエインの死から一年後に、バンドはまたしてもメンバーを失う。ベーシストのベリー・オークリーが、同じくバイク事故で亡くなってしまうのだ。ともに享年二十四歳。若い。

 このアルバムは二人の死後、最初に発表されたもの。タイトルが残されたメンバーの思いを伝えている。だが内容に暗い死の影はない。むしろ全体の印象は明るく軽快。デュエインの弟、グレッグの頑張りが光る。新メンバーとなったチャック・リーヴェルのピアノも素晴しい。もう一人のギタリスト、ディッキー・ベッツのカントリー志向がポップな彩りを与えている。結果として、彼らにとって最大のヒット作となる。

 ジャケットの男の子は、メンバーの息子。裏には、父を失った、ベリー・オークリーの娘の可憐なスナップが。これもまたロック。(2010年6月)