64)世界でいちばん好きな曲

ネコふんじゃった
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 古今東西、あらゆるジャンルのなかでいちばん好きな曲は何か。ベートーヴェンの『英雄』、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」といったところが、すぐに思い浮かぶが、今日の気分としては、カーペンターズの「遥かなる影」と答えたい。

 いい曲、いいアレンジ、いい演奏。カーペンターズの作品には、この三つの揃ったものが多い。それは兄リチャードの選曲、アレンジ、さらにはプロデュースの能力に負うところが大きいだろう。加えて、何ものにも代えがたいカレンの声。これらの要素が、最高のレベルで作用し合って生まれた奇蹟的な作品が、「遥かなる影」である。原題から思い切り外れた邦題も素晴らしい。

 こんなにも儚く、切なく、美しい曲があるだろうか。あるかもしれないが、いま現在の気持ちとしては「ない」と断言したい。まず曲は、言わずと知れたバート・バカラックの名品。バックを固めるのはハル・ブレイン(ドラムス)、ジョー・オズボーン(ベース)といった名手たち。ヴォーカル・ハーモニーは、すべてリチャードとカレンの多重録音によるもの。ピアノの前奏からして、もうとろけちゃいそう。間奏部分のさりげない転調も効いている。

 カーペンターズにかんしては、何種類ものベスト盤が出ており、そちらをお求めになるのもいいだろう。しかしオリジナル・アルバムには、どのベスト盤からも漏れた素敵な曲が、かならず一曲は入っている。このアルバムでは、二曲目の「ラブ・イズ・サレンダー」がそれ。(2011年2月)