75)儚いまでに美しい

ネコふんじゃった
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 ニック・ドレイクは1948年に生まれて1974年に亡くなった、イギリスのシンガー・ソングライターである。二十六年の人生で、彼が残したアルバムは三枚。いずれも生前にはあまり売れなかった。そのことも彼の死を早めた要因かもしれない。うつ病に苦しんでいた彼の死は、抗うつ剤の過剰摂取によるものだった。遺書はなく、自殺か事故かわからない。

 音楽的な評価が高まったのは、80年代に入ってからではなかったかと思う。フォロワーというほどではないけれど、彼の名前を口にするミュージシャンたちが、ちらほらと現れるようになる。最近ではブラッド・メルドーが「リバー・マン」をカバーしていた。ひっそりと受け継がれていくところが、いかにも彼らしい。

 この『ブライター・レイター』は二枚目にあたり、いちばん内容的に明るく、完成度も高い気がする。とくにイントロから「ヘイジー・ジェイン」への流れは、何度聴いても心が躍る。もちろん『ファイブ・リーヴス・レスト』の繊細な美しさもいい。『ピンク・ムーン』の心をしめつけられるような孤独と、どこか諦観した静けさにも惹かれる。つまり彼の三枚のオリジナル・アルバムは、どれも傑作なのだ。

 ニック・ドレイクの音楽には、イギリスのトラッドの影響が強い。とくに陰影を帯びたメロディと、独特のギター・プレイにそれを感じる。フェアポート・コンヴェンションやペンタングルといったグループとの交流もあったようだ。いつまでも大切に聴きつづけたいミュージシャンである。(2012年1月)