45 突然の死を悼んで

ネコふんじゃった
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 その日、ぼくは仕事でパリにいた。朝、ホテルの部屋でテレビをつけると、白いシーツでくるまれた遺体が、ヘリコプターから搬入されるシーンが映った。すぐに画面はジャクソン・ファイブ時代のマイケル少年に切り替わる。さらに「今夜はドント・ストップ」「スリラー」と全盛期のプロモーション・ビデオが映し出されていく。えっ? さっきの遺体、彼だったのか……。

 ぼくにとってのマイケル・ジャクソンは、この『オフ・ザ・ウォール』一枚に尽きる。「イベリアン・ガール」や「ヒューマン・ネイチャー」など、他にも好きな曲はある。でもアルバムとして隅から隅まで好きなのは、『オフ・ザ・ウォール』だけかもしれない。クインシー・ジョーンズをプロデューサーに迎えての一作目。いつもながらQ氏の音作りは隙がなく適切だ。マイケルも自作の曲を用意して、ミュージシャンとしての意気込みを見せる。ロッド・テンパートンをはじめ、外部発注の曲も出来がいい。ポール・マッカートニー作の「ガールフレンド」が、いいアクセントになっている。という具合に、すべてがうまくいっているのだ。

 『スリラー』も『Bad』も、なくてよかったのにな。『オフ・ザ・ウォール』が最大のヒット作だったらよかったのに……なんて思うのだから、ファンは勝手ですね。ポップ・スターとしての巨大なイメージを背負いながら、ゴシップやスキャンダルにまみれていく、その後の姿を知っているだけに、このアルバムで彼が見せた新鮮な輝きは、尊いものに感じられる。(2009年7月)