ぼくはこんな絵を掛けている……③

こんな絵
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 今日も絵を一枚紹介しよう。リビングのいちばん広い壁に掛けているリトグラフは、15年ほど前にはじめてヨーロッパへ行ったとき、パリのデパートで買ったもの。部屋に絵を飾るといっても、やっぱり油絵は高い。買うとしてもサムホールくらいの小さなものだ。その点、リトグラフや版画は手ごろな値段で買えるのでお勧め。また油絵は主張が強いので、部屋の雰囲気に合わせるのが難しい。ちょっと控えめなリトグラフくらいが、失敗は少ないかもしれない。このリトグラフも高価なものではないけれど、額装するとそれなりにゴージャスな雰囲気になる。

 いまでこそ年に一、二回は海外へ行っているが、このときのヨーロッパ周遊旅行こそ、ぼくの海外デビューだった。(それまでも釜山には行ったことがあるが、これは「海外」に入れないことにする。)というのもぼくは飛行機が苦手で、できれば一生乗らずに終わりたいと思っていた。(もちろん釜山へは高速艇で行った。)幸か不幸か、わが家は長く経済的に裕福ではなかった。また二人の子どもたちが大学や高校の受験で、なかなか家族で海外へ行く時間もとれなかった。

 ところが思いがけず本が売れて少し余裕ができ、子どもたちも無事に大学生になった。この機会を逃したら、二度とチャンスはめぐってこないかもしれない。「あなたがうじうじ言うなら、わたしたちだけで行きます」と妻に最後通牒を突き付けられた。「わかった、一緒に行こう」ぼくは男らしく腹をくくった。家族三人を墜落事故で失い、自分だけ取り残されるくらいなら、いっそ全員で墜落しちゃったほうがいい!

 じつは、いまでもぼくは飛行機という乗り物を信用していない。誰でも不調なときはある。「おれ、今日ちょっと調子悪いから」「わかった、しばらく休んでなさい」「そうさせてもらいます」列車や車や船にとって「安静」は静止することであり、なんの問題はない。ところが飛行機では墜落を意味する。そんな理不尽な乗り物、とても正気では乗れない。飛行機の乗客は半ば正気を失っているのである。

 しかし正気を失っても行く価値はある。それほど家族四人の海外旅行は楽しかった。すっかり味をしめて、翌年はイタリア、さらに北欧と3年つづけて家族で海外へ行くことになる。さすがに長男が就職してからは、もう10年以上、家族四人の海外旅行は実現していない。また年老いた猫がいるので、いまは全員が家を留守にするわけにもいかない。しかし猫を無事に看取ったら、久しぶりに四人で海外に行きたいなと思っている。(2020.8.30)