ぼくはこんな絵を掛けている……⑤

こんな絵
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 10年ほど前にオーストラリアのケアンズに行ったときに買った版画。いわゆるアボリジナル・アート。街を散歩しているときに小さなギャラリー兼アトリエみたいなところがあり、入ってみると先住民(アボリジニ)の内気そうな若者がいた。客はぼく一人。作品を見ているあいだ、彼はずっと横に立っている。ぼくは「ファンタスティック」とか「マーヴェラス」とか「ビューティフル」とか知っている限りの美辞麗句で絵をほめた。そのたびに「サンキュー」と言って照れ臭そうにしている。素朴でいい絵だなと思ったので、はがきサイズほどのものを5枚買った。

 これはそのうちの一枚。額装して玄関に掛けている。玄関はお客さんを迎え入れるところでもあるので、あまり押し付けがましい派手な絵は掛けたくない。このくらいのさりげないもののほうがいいかもしれない。意図しているわけではないのだが、外国に行くとお土産に絵や版画を買って帰ることが多い。みんなで楽しめるし、旅の想い出にもなるので、なかなかいい習慣ではないかと思っている。

 日記を見ると、出発は2011年11月21日で、11月25日まで滞在している。はじめてのオーストラリアである。といってもケアンズを中心にグレート・バリア・リーフなどでのアクティビティを楽しむ旅だった。ケアンズの観光施設は、ホテルもショップもレストランも、ほとんど半径500メートルくらいの区域に集中している。たいていのところへは15分もあれば歩いて行ける。

 ぼくがオーストラリアのアボリジニに興味をもったのは、ブルース・チャトウィンの『ソングライン』という一冊の本だった。イギリス人の彼はサザビーズに勤めたあと作家活動に入り、旅行記などを中心に良質な著作を幾つも残した。残念ながら1989年に48歳という若さで亡くなっている。そのチャトウィンの書簡集(“Under The Sun”)をケアンズの古本市で見つけた。なんだか不思議な縁のような気がして、550ページもある大型本でかなり重いけれど買ってしまう。5ドルと安かったしね。

 さらに街をうろうろして、ふらりと足を踏み入れたギャラリーで買ったのが、今回紹介したアボジニアル・アートの小品である。ドリーム・タイムやトーテミズムとともにアボニジアル・アートのことを知ったのも、チャトウィンの本によってだった。(2020.9.13)