ぼくはこんな絵を掛けている……②

こんな絵
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 階段の踊り場に掛けているこの絵は、数年前に写真家の小平尚典さんとカリフォルニアを旅していたとき、サリナスという小さな町のギャラリーで買ったもの。サンフランシスコからロスへ向かって少し南下したこの町に、ジョン・スタインベックの博物館があるというので立ち寄った。早く着きすぎて、開館までに1時間ほどある。そのあいだ町をぶらついてみることにした。

 明るいメインストリートで蚤の市をやっていた。地元でとれた野菜を山盛りにして商っている。いかにも趣味の日曜大工で作りましたといった感じの小鳥の巣箱がたくさん並べてあるのも、一応売り物らしい。思い思いの露天が道路の両側に並んでいて楽しい。

 コテコテのメキシカンフードを売っている屋台がある。ちょうどいい。今朝は何も食べずに出てきたので、ここで朝ごはんにしよう。タコスも美味しそうだけれど、本日はブリトーでいってみる。注文すると寡黙なメキシカンのおっちゃんが、鉄板の上で手早く作ってくれる。なんだか夜店の焼きそば屋さんみたいだ。ひき肉と野菜を炒め、さらに豆やライス、ソースを加えて炒める。食欲をそそる匂いがあたりに立ち込める。それらをパイ生地のような薄い皮に包んで出来上がり。大きいので二つに切ってもらう。近くの店でコーヒーも調達してくる。

 朝ごはんも食べたことだし、もう少し町を歩いてみることにする。小さなギャラリーがあるので入ってみたいと言うと、小平さんはそのあいだ写真を撮ってくるという。壁に掛かっている絵は額に入っているが、それ以外のものはカンバスのまま、床に無造作に並べられている。数が多いので斜め読みするようにして見ていく。これといったものはないなあ。値段も数十ドルのものが多い。セミプロといった感じの人たちの作品なのかもしれない。そんななかで一枚の絵が目にとまった。銅版によるエッチングに淡い彩色が施された作品には、「Prelude to Summer」というタイトルが付いている。おお、なんかドビュッシーみたいだぞ。100ドルくらいなので自分へのお土産に買うことにした。

 この話にはつづきがあって、絵を梱包してもらっているあいだに博物館を見学して戻ってみると、なんと東海岸在住の作者がたまたまギャラリーに立ち寄っていたのである。「わたしの絵を気に入ってくれてうれしいわ」と、いきなりハグされた。キャサリン・テイラーさん。話を聞くと歳はぼくと同じくらい。絵のイメージからバージニア・ウルフみたいな女性を想像していたら、現れたのは肝っ玉母さんだった。でも気に入った絵が買えて、おまけにボリューミーでパワフルな女性に抱きしめられて、よかった、よかった。