なお、この星の上に(19)

9  異変が起こったのは、月が天頂に昇りつめ、動物たちの多くが眠りに就いたころだった。森のなかに殺気が漲った。黒い森のなかを稲妻のように伝令が走った。 「気をつけろ! 何かがやって来る」  小鳥たちは藪のなかで目を覚まし […]

なお、この星の上に(18)

 その日の夕食時、母親は電気洗濯機の話を持ち出した。近所の婦人たちと見にいったらしい。このあたりで最初の電気洗濯機を買った家というのが、多賀清美のところと聞いて、健太郎は自分のことが話題になっているわけでもないのに、心臓 […]

なお、この星の上に(17)

8  遠足が終わると、三年生は個人面談がはじまる。毎日に数人ずつ、担任と今後の進路のことを話し合うのだった。大まかには進学か就職かという選択になる。コースによって二学期からは一部の授業が分かれ、就職コースの者には実務的な […]

なお、この星の上に(16)

 遠足の残りの時間、四人は何をするでもなく雑木林のなかを気ままに歩きまわりながら、吉右衛門爺さんを探し出す計画のことなどを話し合った。なにしろ相手は吉右衛門爺さんだ。エラン爺さんのときのようなわけにはいかない。エリアをき […]

なお、この星の上に(15)

7  緑が深くなっている。早春を賑わわせた野草、フキやゼンマイ、ツクシ、ワラビなどの季節は終わり、草花は夏へ向かう準備をはじめている。小さな花の蜜を求めて、蝶たちが飛び交っている。そろそろ冬眠から目覚めたクサガメやヒキガ […]

第1回 小説とはどのようなものか

【はじめに】  後期は主に小説というジャンルをとおして文学の話をします。小説とはどのようなものか? どんなことが、どのように書かれているのか? 過去の作品を例にとりながら具体的に考えていこうと思います。これが一回の授業の […]

なお、この星の上に(14)

6  霧は霊気のように森を覆っていた。黒々とした森のなかを、風は静かに吹いている。澱んだ静寂とともに霧は掻きまわされ、取り払われた霧のなかから、シダや蔦に絡みつかれた森の木々が姿を見せた。木々の根元には落ち葉が厚く降り積 […]

なお、この星の上に(13)

 山頂の神社の近くに健太郎がはじめて目にする権現滝がある。切り立った褐色の岩壁を、水は垂直に勢いよく落ちている。水しぶきのかかるところに深緑色の苔が生えていた。春先に雨がつづいたせいか、かなりの水量があるようだった。高さ […]

なお、この星の上に(12)

 いつのまにか平坦な尾根に出ていた。かなり標高が高くなっている。日当たりのいい場所でひと休みしていくことになった。各自が思い思いの場所に腰を下ろし、持ってきた水筒の水を飲んだ。日はすでに高く昇り、足元には暖かな木漏れ日が […]