往復書簡

往復書簡『歩く浄土』(3)

第三信・森崎茂様(2017年8月30日)  さっそく返信をいただき、ありがとうございます。第二信の最後で言及されていた、俗と非俗のあいだのわずかな隙間ということ、とても微妙で難解ですが、大切なところですね。このわずかな隙間から、アーレ...
往復書簡

往復書簡『歩く浄土』(2)

第二信・片山恭一様(2017年8月27日)  2017年8月18日に片山さんと熊本で話をしたとき、お互いの言葉もこなれてきたので、往復書簡をやりませんかと呼びかけ、その第一信が送られてきた。定期的に熊本と福岡を往復しながら対話を持続し...
往復書簡

往復書簡『歩く浄土』(1)

第一信・森崎茂様(2017年8月24日)  往復書簡をはじめるにあたり、これまでの流れを少し整理してみたいと思います。ぼくたちの対話も四年目に入り、当初にくらべると、ずいぶん見通しがよくなったことを実感しています。すでに何度か触れたよ...
ネコふんじゃった

22 サンプラー盤を買っていたころ

 中学三年生のときのオイルショックで、それまで二千円だったLPレコードが二千五百円になった。おこずかいは月に二千円だったので、五百円の値上げは痛かった。欲しいレコードはたくさんあるのに……。  そのころ幾つかのレコード会社がサンプラー盤と...
講演原稿

文学のことば・文学のまなざし

 日本では去年(2016年)7月、神奈川県の知的障害者福祉施設に元職員の男が侵入して、刃物で19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせるという事件が起きました。事件から一年が経ち、被害者の父親の一人がインタビューに応じたものが新聞に出ていました。...
ネコふんじゃった

21 夏休みに離島で聴いたジョージ・ベンソン

 大学生になって夏休みに帰省すると、高校時代の友だちとよくキャンプに行った。郷里の街は海に面しており、船で行けるキャンプ場が何箇所かあった。その年はY君と二人で日振島というところへ行くことにした。高速艇で一時間くらいの、かなり本格的な離島で...
医学の常識・非常識

医学の常識・非常識(1)

(1)がん検診をめぐる常識・非常識 【前立腺がん】 ・アメリカで実施された比較試験(約8万人の男子が対象)では、無検査・放置群とPSA(前立腺特異抗原)検診とを比べた結果、検診群の前立腺がん死亡数は減らなかった。(JNCI 2012...
ネコふんじゃった

20 世界仕様、日本のロックの金字塔

 大学院に進学して間もないころ、ロック好きの先輩が、「これ聴かんと後悔するばい」と言って、一枚のレコードを貸してくれた。針を落としてから最後の曲が終わるまでの四十分間。打ちのめされた。とくに「マラッカ」と「つれなのふりや」と「裸にされた街」...
緊急討議

『歩く浄土』Live in KUMAMOTO 2017.5.26 (Part2)

片山 すると安倍晋三的なものは出てくるべくして出てきた、いま起こっているデタラメは起こるべくして起こっているということですね。 森崎 そうだと思います。「それはめでたいことで」という皇室報道と、やりたい放題の安倍晋三の迷妄が、分離不能の一...
緊急討議

『歩く浄土』Live in KUMAMOTO 2017.5.26(Part 1)

森崎 この国のあり方は数年で臨界を越えて急速に変質したように見えます。なぜだ、という思いは誰の胸のうちにもあると思うんです。特別機密保護法から安保法制(戦争法)を経て共謀罪へ、戦後民主主義と呼ばれてきたものが一気に瓦解してしまった。多くの人...
未分類

弔辞

 濱崎君、まさかこんなに早くお別れの言葉を述べる日が来るとは思ってもみませんでした。日記を見ると、ちょうと一年前に最初の知らせを受けています。長く医者をやってきた君らしく、膵臓癌のステージⅣbだとあっさり明かしてくれました。肝臓と肺に転移が...
ネコふんじゃった

19 今年は三十一回忌

 「夏の日の恋」でおなじみのパーシー・フェイス。ジャンルでいうとムード・ミュージックやイージー・リスニングといったくくりになるかと思う。しかしヨーロッパ音楽からはじまり、ミュージカル、ラテン、映画音楽、さらに晩年にはキーボードやコーラスを大...
ネコふんじゃった

18 ベスト盤についての一考察

 レコードからCDになって、ベスト盤がつまらなくなった、と感じているのは私だけだろうか。かつてLPの時代には、ベスト盤の名盤がたくさんあった。サイモン&ガーファンクルの『グレイテスト・ヒッツ』やジョン・レノンの『シェイヴド・フィッシュ』は、...
緊急討議

『歩く浄土』 Live in FUKUOKA 2017.4.14 (Part 5)

5 圧倒的な善として人間ははじまった 片山 森崎さんはブログのなかで繰り返し、「おのずからなる善」「おのずからなる絶対的な善」ということを言っておられます。わかりやすい例をあげると、先ほども触れた映画『タイタニック』のなかで、恋人のロ...
緊急討議

『歩く浄土』 Live in FUKUOKA 2017.4.14 (Part 4)

4 総表現者としての生 片山 グローバリゼーションによって国家や文化や伝統といった保護膜が破壊され、誰もが一個の生存として剥き出しにされる。一人ひとりの個体差が個体差として、いかなる配慮も酌量もされることなく、それ自体として客観的に評...
緊急討議

『歩く浄土』Live in FUKUOKA 2017.4.14 (Part 3)

3 総アスリートという自然 片山 以前に森崎さんが、現在の世界のありようを「総アスリート化」という言い方で粗視化されたことがあって、ぼくたちのあいだではすっかり定着した言いまわしになっているのですが、確認の意味で初出の森崎さんの発言部...
緊急討議

『歩く浄土』Live in FUKUOKA 2017.4.14 (Part 2)

2 国家を私的に運用する 片山 トランプが手続きなしに、いきなりシリアを空爆した。実際にどういう経緯だったのか、いろんな情報が錯綜していて真相はわかりません。新聞やネットで手に入れることのできる情報をもとに、できるだけ本質的なところを...
緊急討議

『歩く浄土』 Live in FUKUOKA 2017.4.14 (Part 1)

はじめに  これまでに四回を数える私たちの連続討議は、電子出版ながらそれぞれ一冊の本として読んでもらうことを意図している。具体的には、森崎茂さんと継続して話をしていくなかで、少しまとまったテーマが見えてきたころに、その間、森崎さんが書かれ...
九産大講義

総表現者宣言~新年度の開講にあたって

 講義をはじめるにあたり、ぼくなりの講義のモチーフといいますが、今年は皆さんと一緒にこういうことを考えてみたい、ということをお話ししたいと思います。  いまはどういう時代か、というところから入っていきます。言うまでもなく大変な時代ですね。...
ネコふんじゃった

17 世界でいちばん美しいCD

 アルゾ。本名アルフレッド・アフランティ。ニューヨーク生まれの彼は、十代のころからグリニッジ・ヴィレッジのカフェなどで音楽的なキャリアを積んでいく。様々な困難を乗り越えて、ようやくデビュー・アルバムの発売にこぎつけたのが一九七二年のこと。し...
未分類

フィクションの可能性

 いつの時代にも、その時代に固有の「自然」がある。ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』によると、紀元前1776年ごろに制定されたハンムラビ法典では、人は生まれながらに三つの階級(上層自由人、一般自由人、奴隷)に分けられていた。それぞれ...
ネコふんじゃった

16 カットアウト盤を探し歩いた日々

 いまの人たちには馴染みがないかもしれないが、以前はカットアウト盤といって、廃盤などになったレコードをわざと傷つけ、ディスカウント商品として流通させる仕組みがあった。その名のとおり、ジャケットの片隅が少し切り取られている。なかには切れ込みを...
ネコふんじゃった

15 プロレスラーじゃありません

 深夜、人気のない裏通りでけっして出会いたくないミュージシャン、それがアーロン・ネヴィルだ。不幸にして出会ってしまったら、目を合わさないようにして、できるだけ素早く通り過ぎてしまいたい相手、それがアーロン・ネヴィルだ。いくらにっこり笑いかけ...
講演原稿

いまはどういう時代か

 いまはどういう時代かというテーマで、自分がやっていることに即してお話してみたいと思います。ぼくは一応作家、小説家ということになっていますが、作家にしても小説家にしても、職業としてはすでに成り立っていないと思います。  たとえばアマゾンで...
未分類

21世紀の自由・平等・友愛

 森崎茂さんとつづけている連続討議が4年目に入った。二週間に一度、熊本と福岡を行ったり来たりして、コーヒーを飲みながら2時間ほど集中的に話をする。男二人、色気のないこと甚だしい。そんなことを丸3年もやっている。お互いよくつづくものだと呆れつ...
ネコふんじゃった

14 ボブ・ジェームスはココアの味

 両親が共働きだったので、小学校から帰ってくると、おやつは自分で作ることが多かった。電子レンジのない時代で、ホットケーキなんかもフライパンでせっせと焼いていた。それからココアね。純正ココアとグラニュー糖をよく混ぜ、熱湯を少し加えてペースト状...
ネコふんじゃった

13 もちろん、明日も愛している

 ぼくぐらいの歳(年が明けると四十八です)になると、気に入ったアルバムをいろんなディスクで何枚も持っている、ということがだんだん増えてくる。キャロル・キングのこのアルバムも、最初はLPレコードでずっと聴いていた。それから初代のCD、ボーナス...
九産大講義

第7回 フィクション(3)

②童話性  つぎに宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を見てみましょう。主人公の名前はジョバンニ、親友がカムパネルラで、ザネリという同級生がいます。「いったいどこの話だ?」と思いますよね。ジョバンニはお父さんが不在で、お母さんは病気で寝ています。ジ...
九産大講義

第6回 フィクション(2)

 前回にひきつづきフィクションについてお話します。フィクション(虚構)の反対はファクト(事実)です。ノンフィクションでは、あくまでファクト(事実)が重視される。事実によって書き換えられ、更新されていきます。新しい事実によって、かつての「事実...
ネコふんじゃった

12 天才たちの青春賦

 季節が冬に向かう時期、朝起きてまず、このCDをかける。一曲目の「ブライト・サイズ・ライフ」を聴くと、今日もいいことがありそうな気がする。いや、今日もいい一日にしようと思う。  パット・メセニーとジャコ・パストリアス。二人の若き天才ミュー...
九産大講義

第5回 フィクション(1)

 これから何回かにわたって虚構、つまりフィクションの話をしようと思います。大きな本屋さんへ行くと、フィクションとノンフィクションというふうに棚を分けているところがありますね。小説はフィクションです。では、フィクションとは何か? これがなかな...
九産大講義

第4回 空間

 ここ何回か、小説の構造ということで授業を進めています。最初に語り手についてお話ししました。幾つかの作品の冒頭を引用しながら、それぞれ語り手のタイプが異なることを見てきました。カフカの『変身』のように、現実には起こりえないようなことを語りだ...
ネコふんじゃった

11 セピア色のビーチ・ボーイズ

 手ごわいバンドである。なかなか一筋縄ではいかない。三十枚近いオリジナル・アルバムのなかに、駄作は一枚もない。どのアルバムにも、ちゃんと聴きどころがある。このアルバムは十五枚目だから、ちょうと折り返しということになる。デビューから六年、セー...
九産大講義

第3回 時間

 今日は小説のなかの時間について話をします。ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、できるだけわかりやすくお話ししてみます。  単純なやつからいきましょう。みなさんは『今昔物語』をご存知でしょう。芥川龍之介の「鼻」が『今昔物語』の説話を...
九産大講義

第2回 語り手

 これから数回にわたり、小説の構造について少しお話します。一般に小説と言われているものが、どういった要素によって成り立っているかということですね。いろいろな説明の仕方があると思いますが、この授業では語り手、空間、それに時間という三つの要素に...
講演原稿

家族として見た世界~人がつながること

 今日は家族についてお話しします。まず家族というものを、どういうところでとらえればいいか。実体としての家族、現象としての家族、あるいは文学、思想としての家族。いろいろな切り口で家族を語ることができます。そこで家族というものを象徴する出来事と...
ネコふんじゃった

10 いつかはジョアン・ジルベルトのように

 年に数回、仕事で東京へ行くことがある。出版社が近いので、たいてい一日は、御茶ノ水から神保町の界隈をうろうろする。あのあたりって、どうしてカレー屋と楽器店が多いのだろう。過日、そんな中古楽器店の一つにふらりと足を踏み入れた。スペイン製のクラ...
九産大講義

第1回 小説とはどのようなものか

【はじめに】  後期は主に小説というジャンルをとおして文学の話をします。小説とはどのようなものか? どんなことが、どのように書かれているのか? 過去の作品を例にとりながら具体的に考えていこうと思います。これが一回の授業の前半です。  休...
ネコふんじゃった

9 地球にやさしいショーターのサックス

 農学部の学生だったぼくたちは、三年生の夏に北海道研修旅行があった。帯広で乳牛に蹴飛ばされたり、中標津あたりで道産子に追いかけられたり、札幌でラーメンまみれの食生活を送ったりして、ぼくはすっかりスケールの大きな人間となり、髪も髭も伸び放題、...
最新作を語る

『新しい鳥たち』について

 最近、ときどきモーセの十戒のことを考える。ISなどによるテロが身近に報じられるようになった、ここ二年くらいのことだと思う。  『旧約聖書』の舞台は、まさにISやボコ・ハラムみたいな「ならず者」たちが跋扈している荒野である。力に物を言わせ...