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片山恭一の毎日更新、いろんなはなしをします
今日のさけび

 コンピュータのアルゴリズムがもっとも得意とするのは、言うまでもなくいろいろなもののマッチングである。無数の二者択一を繰り返すことによって、たとえばトレーディングの世界では売るべき銘柄(あるいは買うべき銘柄)と売り注文(買い注文)を出すタイミングをマッチングさせる。腎臓移植を待っている患者とドナーをマッチングさせる。音声認識ソフトを使ってコールセンターにかかってきた電話から顧客のパーソナリティを分析し、最適のカスタマーサービス担当者とマッチングさせる。いずれは教師と生徒、看護師と患者といった関係も、アルゴリズムがうまくマッチングさせてくれるようになるだろう。

 ところが、である。こと恋愛にかんして、アルゴリズムによるマッチングはうまくいかないのである。大手の恋人探しサイトがアルゴリズムを使って相性が良いと思われる二人をピックアップするのと、ランダムな二人をピックアップするのとでは、うまくいく確率は変わらないという統計がある。これは何を意味しているのだろう? 誰か(何か)を「かけがえのないもの」として好きになるという、人間の人間的な情動はデータ化できないということである。いま中国などは量子通信衛星を打ち上げて、安全な通信システムを構築しようと躍起になっている。そのために使われるのが、他者には解読不可能といわれる量子暗号である。ところがどっこい、ぼくたちが誰かを(何かを)好きになることは、「量子もつれ通信」などよりも、はるかに解読不可能なのである。

 たとえばタイタニック号の上でジャックとローズが出会い、一瞬にして恋に落ちることを解読するアルゴリズムは存在しえない。なぜなら、ぼくたちが誰かを好きになるという出来事は、自己の手前で起こっているからだ。アルゴリズムがやれるのは最適なAとBをマッチングさせることである。ぼくたちが何気なしに人を好きになる場合、まず「好き」ということが起こって、しかるのちに「好き」を介してAとBが、たとえばジャックとローズが実詞化される。だからマッチングさせるべき最適なAとBがどこにいるのかを、あらかじめ解読することは原理的に不可能である。

 マッチングはすでにあるものを結びつけるだけで、何かを新しく創り出すわけではない。これにたいして「好き」という、分別ある男たちからは侮蔑の目を向けられているらしい情動は、ジャックとローズを互いに「かけがえのないもの」として可憐にさりげなく創造してしまうのである。人間にまつわる事象として、これ以上のものがあるだろうか。人が人を好きになることは、人間がなしうる最善にして最上のものであることを、ぼくは信じて疑わない。(2019.6.17)

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第2回 『万葉集』(前半)

1 どういう書物か  日本に現存する文学的な作品として、最古のものの一つで、主に「短歌」と呼ばれる三十一音の短い詩が集められている。短歌のほかに長歌と呼ばれる、もう少し長い詩も収録されているが、この形式はほとんど『万葉集 […]

ぼく自身のための広告(5)

5 本棚……③  机に向かうと、この本棚を背にする格好になる。家を建てたときに造作家具として備えてもらった。できるだけたくさん収納できるものを、とお願いしたけれど、すぐにいっぱいになっちゃうんだな。棚板を調整することで上 […]

ぼく自身のための広告(4)

4 本棚……②  三つ並べた本棚の右端には、思想・哲学関係の本が入っている。いちばん場所をとっているのはミシェル・フーコー。単行本に加えて講義集成と思考集成が隊列をなしている。同時代最大の思想家という評価は変わらない。ジ […]

ぼく自身のための広告(3)

3 本棚……①  今日はぼくの本棚をお見せしよう。机に坐って右手に、同じ本棚を三つ並べ、倒れてこないように金具で壁に固定してある。この本棚には自分のなかで評価の定まった人たちのものが集めてある。そのため全集や著作集など、 […]

ぼく自身のための広告(2)

2 コーヒー  朝はだいたい6時から7時のあいだに起きて、まず庭で簡単な体操。それから剣道の素振り。これで15分か20分。つづいて朝食の支度。といってもリンゴ、バナナ、キウイフルーツなどを切るくらい。ぼくも家族も朝は果物 […]

ぼく自身のための広告(1)

1 机の上  ぼくが仕事をしている机の上はこんな感じ。ご覧の通り、なんの変哲もない。ただごちゃごちゃといろんなものが乗っかっているだけである。つまんない。まあ、仕事をするところだからね。面白おかしくなくてもいいのだ。   […]

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