まぐまぐ日記・2011年……(18)

まぐまぐ日記
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12月22日(木)曇り

 冬型の天気で寒くなった。夕方から天神に出て、TUTAYAで古本を買う。今日は鶴見俊輔・小田実『オリジンから考える』(岩波書店)、吉本隆明・江藤淳『文学と非文学の倫理』(中央公論社)、中島義道『悪への自由』(勁草書房)などの収穫あり。

 午後6時から、中洲の「酒一番」にて大学時代の恩師・友納先生と、同級生の浜崎君の三人で、こぢんまりと忘年会。浜崎君は農学部を出たあと、医学部に入り直して医者になったという変わり者。長く北海道で僻地医療にあたっていたが、いまは福岡市内の個人病院に勤めている。

 友納さんは、ぼくが学生時代には助手をされていた。ずいぶん影響を受けたものだ。ぼくにとっては学問上の唯一の師と言っていい。70歳になられた現在も、私大で教えておられる。助手時代から論文を書かない人で、最近はマルクスとレーニンとケインズしか読まないとおっしゃっていた。久しぶりに話したが、考えておられることは全然ぶれていない。非常に的確に現在の世界を見ておられると感心した。

12月23日(金)曇り

 今日も寒い。小説が進まないので、昨日買ってきた『オリジンから考える』を読んでいる。市民運動というものに違和感があって、小田実の本は学生時代に一通り読んだきり、いつのまにか疎遠になっていた。彼が亡くなって、来年で五年になる。いまは小田実のような人がいたことが懐かしい。

 ウィスキーで有名なオールド・パーは、なんと100歳を超えて強姦罪でつかまったことがあるらしい。そのことにからめて鶴見俊輔が「オールド・パー・リアリズム」と言っているのがおかしかった。ぼくもインプレッショニズムでいいから、老いてなおワイセツでありつづけたいと思う。

 夜はDVDでフランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生』を観る。彼の作品としては冗長なところもあるが、終盤の息もつかせぬ展開は見事。観終わったあとの幸福感は、やはりキャプラである。

12月24日(土)

 あいかわらず寒い。午後は矯正管区で東区の稽古会の納め式。最後は師匠のH先生に相手をしてもらう。来年も自分なりの目標に向かって、楽しく稽古をつづけたい。

 夕方、長男が大阪から帰ってくる。年末は忙しいと言っていたが、休みがとれたらしい。おかげで家族四人そろってのクリスマス・イブとなった。ワインをあけてチキンを食べる。本日の映画は『秘密の花園』。バーネットの児童文学をコッポラが映像化した作品だ。あざとくない演出に好感がもてる。また美術が見事で、大人の鑑賞にも耐える芸術作品となっている。

12月25日(日)

 今日が本当のクリスマスなのに、気分的には「祭りのあと」といった感じ。でもまあ、一応はクリスマスなので、フィル・スペクターとシンガーズ・アンリミテッドのクリスマス・アルバムを聴く。ぼくがいちばん好きなクリスマス・ソングは「ママがサンタにキスをした」だ。その後、このママはサンタをくすぐるという狼藉におよぶ。う~む、本当にサンタだったのだろうか、という疑惑が残る名曲である。

12月26日(月)晴れ

 午前中、今年最後の気功。気功では「必要な薬はその人のなかにある」と考えて、これを「内丹」という。気功は自分のなかの「内丹」を、少しずつ増やしていくことを目標としている。そして外部の薬への依存を減らしていく。もちろん「薬」は比喩で、いろんなものに置き換えて考えることができる。午後は「まぐまぐ!」のエッセーを書く。

 九電の全原発が停止。この機会にトップは頭を冷やし、「生活者が応援したくなる企業でなければ、これからは生き残れない」ということを、よく考えてみるべきだ。国家財政はすでに破綻しているわけで、いつまでも国の支援は期待できない。それにしても原発停止で5%の節電要請というのはどういうことだろう。円高で各メーカーの工場はぞろぞろと九州から撤退している。素人が考えても、5%以上は電力需要が減っているはずだ。つまり何もしなくても、電力は足りているし、原発を稼働させる必要もないということだ。

 剣道教室が冬休みなので、夜はDVDで『恋に落ちたシェイクスピア』を観る。『ロミオとジュリエット』の誕生を、シェイクスピア自身の恋愛とからめて楽しく描いている。主演のグウィネス・パルトロウが好演。『大いなる遺産』のときよりもいい。

12月27日(火)晴れ

 小説が進まないので、気晴らしにブログを更新する。今回は「あの本、この本」にブルース・チャトウィンの『ソングライン』について書く。あまり知られていない著者だが、紀行文とも小説ともつかない、不思議に美しい作品を残して、1989年にエイズのため48歳で亡くなった。

 午後、近くのイオンで福岡ウォーカーの秋吉さんと会い、カレンダーをいただく。スターバックスでコーヒーを飲みながら、一時間ほどよもやま話。秋吉さんに勧められて、帰ってからさっそくフェイスブックの登録をする。

 夜はDVDで『キートンの大学生』を観る。ぼくはもちろんチャップリンも好きだが、彼のヒューマニズムをときどき押しつけがましいと感じることがある。その点、キートンはどこまでもニヒルでドライだ。

12月29日(金)晴れ・曇り

 午前中は小説を少し進める。大石昌良さんのCDのサンプルを送ってきたので、さっそく聴いてみる。ぼくが作詞した「海を見ていた ぼくは」はさんざん聴いたので、冷静に判断できないが、他の曲はとてもいい。全体として風通しのいい、ポップな作品集に仕上がっていると思う。

 タイミング良く、プロデューサーの藤井さんとスカイプで年の瀬のご挨拶。今年は大石さんの曲で作詞家デビュー、白石さんの本で文庫本解説者デビューと、新しいことに挑戦できた年だった。

 夜はDVDで『ギルバート・グレイプ』を観る。若き日のジョニー・ディップとレオナルド・ディカプリオが出ている。ディカプリオは、まだ少年と言っていい年頃。ジョニー・ディップの抑えた演技が光る。知恵遅れの弟の世話をする兄の話だが、さらっと描いているのがいい。

12月31日(土)晴れ・曇り

 午前中、お正月用の買い物。夕方、家の窓拭き。夜は家族四人ですき焼きを食べながらDVDで『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』を観る。大晦日だから、コメディがいいと思って選んだプログラム。家族にも好評だったようだ。若き日のリバー・フェニックスとキアヌ・リーブスが出ている。さらにウィリアム・ハートなど、ぜいたくに役者を使っている。リバー・フェニックスには、もっと長生きしてほしかったな、と彼の出ている映画を観るたびに思う。それにしても、大晦日ってなぜすき焼きなのだろう?

 ぼくの来年のテーマは「禁欲」である。テレビを観ない日、車に乗らない日、インターネットにアクセスしない日など、いろんなタブーをつくって苦しみたいと思っている。とりあえず元日は、お買い物をしない「消費断食」にて信念をスタートさせるつもり。