まぐまぐ日記・2011年……(10)

まぐまぐ日記
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11月8日(火)曇り

 このところ「日本人の死生観」というエッセーを書いているが、うまく書けずに苦労している。土着の他界観の上に、仏教や道教や儒教など、外来の宗教思想が入って来て、本来の姿を見えにくくなっているのだ。また貴族たちの考えていた他界観と、庶民のそれとも大いに違う。そんな事情から、どこにスポットを当てるかによって、ずいぶんと解釈が違ってくるのだ。

 夜はハワード・ホークスの『コンドル』を観る。ケイリー・グラント主演。共演のジーン・アーサーはフランク・キャプラの映画にもよく出ていて、このところ我が家ではおなじみだ。ロバート・レッドフォード主演の映画にも同じタイトルのものがあるが、あちらは原題が『3 Days Of The Condor』だった。監督はシドニー・ポラックで共演はフェイ・ダナウェイ。映画も面白いが、デイブ・グルーシンの音楽が良かった。

11月9日(水)曇り

 いつものように午後は九州産業大学にて講義。今日は白樺派、とくに有島武郎について喋る。学生の前で喋るのは楽しいし、自分の勉強にもなるけれど、なかなか準備が大変で、どうしても本業の小説が停滞してしまうので、来年一年やって辞めさせてもらおうと思っている。

 夜はデレク・トラックス・バンドの『Songlines Live』を観る。素晴らしい! デレク・トラックスの超絶的なスライド・テクニック。独特のフィンガー・ピッキングもじっくり観ることができる。他のメンバーはキーボード&フルート、ヴォーカル、ドラムス、ベース、パーカッションの5人。みんな呆れるほど巧い。ただ純粋に音楽的なことをやっているだけなのに、ものすごくかっこいいのだ。近年観た音楽DVDのなかでは、アリソン・クラウスの『Live/Alison Kraus&Union Station』とともにベスト。すべての音楽ファンに推薦したい。

11月10日(木)曇り

 午前中、「日本人の死生観」を書きつづけて疲れたので、午後はブログにビートルズについて書く。今回は念願のベスト10を選んでみた。気晴らしにはじめたつもりなのに、つい熱中してしまい、結果的に頭が疲れた。以下に、究極のベスト10を書いておこう。

1.Any Time At All  2.This Boy 3.There’s A Place  4.Please Mr. Postman 5.Help 6.Here,There And Everywhere 7. In My Life 8.While My Guitar Gently Weeps 9.Some Thing 10.Across The Universe

 以上。素晴らしい。会心のラインナップである。この曲順で聴くと流れもいいと思う。なお8.は『アンソロジーVol.3』のデモ・バージョン、10.はフィル・スペクターが手を加える前の「バード・バージョン」である。

11月11日(金)曇り

 13日の講演原稿に手を入れる。最初の原稿は夏休みにつくった。でも読み直すと面倒くさくて、とても講演で喋れる内容ではないと思い、全面的に書き直した。講演時間は1時間なので、分量が多いと時間が足りなくなってしまう。早口で喋るのは嫌なので、ずいぶん削って短くした。まあ、自分なりに最善は尽くしたつもりだ。

11月12日(土)晴れ

 今日は長男の28回目の誕生日。28年前の今日は、小雪の降る寒い日だった。明け方に陣痛がはじまり、朝一番に妻を伴い病院へ行ったのだけれど、なかなか生まれなくて、ひとまず家で待機することになった。無事に生まれたという電話があったのは夕方6時ごろだった。すぐに病院へかけつけ、赤ん坊と対面した。本当に猿みたいだった。あのときぼくは24歳だった。

 午後から剣道へ。今日は日本シリーズの第一戦。デイゲームで、稽古が終って車のラジオをつけると、ちょうどホークスが2対1で中日に負けたところだった。ぼくはホークス・ファンというわけではないし、普段、野球はほとんど観ないけれど、こういう場合はどうしても地元のチームを応援してしまう。だから今日は、なんとなく気分が悪い。

 夜はフランク・キャプラの『我が家の楽園』を観る。いま読んでいる『素晴らしき哉、フランク・キャプラ』(井上篤夫著・集英社新書)によると、『我が家の楽園』の映画化権は、当時としては最高額だったそうだ。この映画から、いよいよキャプラの代弁者ともいうべき、ジェームズ・スチュワートの登場となる。若い! ヒロインは例によってジーン・アーサー。

11月13日(日)曇り

 午前11時半に九州大学病院へ。講演会場で打ち合わせ。今日の催しは、病院のがんセンター主催の市民公開講座。最初に医師が治療の現状について話をする。そのあとぼくが話をする。当然、聴衆には患者さんや家族が多い。まあ、無難にこなせたと思うが、お客さんの数がちょっと少なかったのが残念。200人くらいだろうか。ホールのキャパは500なので、空席が目についた。せっかく喋るのだから、大勢の人に聴いてもらいたかった。

 夕方から打ち上げを兼ねた懇親会。長浜通りの割烹でふぐをご馳走になる。ビール、焼酎、日本酒と入り乱れて、つい飲み過ぎてしまう。

11月14日(月)晴れ

 ……というわけで、今日は二日酔い。それでも気功に出かける。しかし身体を動かしているうちに、気持ちが悪くなった。途中で失礼して、外の空気を吸いに行ったりする。肝臓に持病があるというのに。若いころのような無茶な飲み方はしなくなったが、二年に一回くらい、こんなふうに羽目をはずして後悔する。夜、剣道で汗を流して、ようやく復調。やはり歳をとって内臓が弱くなっているのだろう。同じ二日酔いをしても、回復に時間がかかるようになった。