まぐまぐ日記・2012年……(1)

まぐまぐ日記
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1月1日(日)曇り

 家族四人揃ってお雑煮を食べ、新年を祝う。昼は施設に入っている父を一時帰宅させ、神奈川から来ている妹たちも揃い、みんなで簡単な食事。ぼくのところが息子二人、妹のところは一男二女、五人の孫が揃うことはめったにないので、両親にとっては良い正月になったと思う。

 午後は仲間由紀恵の「蒼い地球」というテレビを観る。ケアンズでお世話になったジャックさんが出るからだ。90分の番組は絶滅の危機に瀕しているコアラが中心で、ジャンクさん登場のグレート・バリア・リーフのコーナーは少しだった。地球の危機を訴えるという番組の趣旨からすると、ケアンズの海は安泰すぎたのだろう。

 今日は買い物をしない「消費断食」の日だったが、ぼくは普段からほとんど買い物をしないので、なんの苦もなくできてしまった。こんなことでは禁欲にならない。もっとハードルの高いテーマを考えなくては。

1月2日(月)曇り・雨

 朝5時半に起きて剣道の寒稽古へ。6時から2時間ほど稽古をする。もう15年くらいつづいている習慣だ。この季節の6時は、まだ真っ暗。竹刀をまじえているあいだに、体育館の外が少しずつ明るくなってくる。なかなかいいものだ。終わると、お母さんたちが豚汁とぜんざいを用意してくれていた。

 吉本隆明・江藤淳『文学と非文学の倫理』(中央公論社)を読み終える。収録されている対談はすべて読んでいるはずだが、ほとんどおぼえていなかった。ぼくはもともと吉本ファンなので、いつも彼に肩入れをして読んできたが、今回久しぶりに読み返して江藤の烔眼に感心した。1965年の段階で大江健三郎について「意識にはのぼらないくらい根強い自己欺瞞」と言っているのには驚いた。ぼくもまったく同感だが、70年代までの大江はすばらしいと思っていた。たしかに『ヒロシマ・ノート』などは面白くなかったが、『万延元年のフットボール』や『同時代ゲーム』といった小説を書いている大江は、やはり圧倒的にすばらしかった。ぼくが「?」と思いはじめたのは、『新しい人よ眼ざめよ』のころからで、これは83年の発表だから、ずっとあとのことだ。

 山折哲雄『わたしが死について語るなら』(ポプラ社)も読了。ぼくは山折が言ったり書いたりしていることを面白いと思ったことはない。この本も、驚くほど内容が貧弱。こんなに何も書いてない本も珍しい。わかっていながら、中古本で500円だったという理由で、つい買ってしまったぼくが馬鹿なのだ。やはり大学の先生に死生観は無理だろう。

1月3日(火)曇り

 寒稽古の二日目。映画へのコメントをたのまれている『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の原作(ジョナサン・サフラン・フォア著、NHK出版)を読み終える。とても面白かった。9・11のテロを素材にして、これだけ書ければ立派なものだ。祖父母をめぐるサイドストーリーも、作品に奥行きを与えている。才能のある人だと思う。

 彼の奥さんはニコール・クラウスといって、やはり作家である。前に読んだ『ヒストリー・オブ・ラヴ』(新潮社)は、タイトル(原題も同じ)と装丁に難があるものの、なかなか面白い作品だった。こちらはナチスを逃れてアメリカへ渡ったポーランド人の話しだったと思う。夫婦そろって重いテーマで書く人たちだ。

 夜はDVDで『風とともに去りぬ』を途中まで。4時間の大作だが、全然飽きない。スカーレットのキャラクターを我儘、軽薄という意見もあるが、人々が発狂状態にある南北戦争下を生きる一人の若い女性の人物造形としては、これでいいのだ。レッド・バトラー役のクラーク・ゲーブルが、いつもながらかっこいい。

 小学館から嶽本野ばらさんの『タイマ』の文庫本を送ってくる。ぼくが解説を書かせてもらったものだ。とてもいい作品なので、一人でも多くの人に読んでもらいたい。

1月5日(木)曇り・晴れ

 今日は53回目の誕生日。午前中は小説を少し進め、午後から家族四人で阿蘇へドライブ。うっすらと雪をかぶった山々が美しい。阿蘇神社に参拝して、かんぽの宿・阿蘇へチェックイン。

 ぼくはかんぽの宿のファンである。料金が安いわりに、サービスは充実している。食べきれないほど料理が出てこないのもいい。お銚子は一本380円である。そんなこんなで、わりとよく利用している。ただ数が少ないのが難点だ。九州には8箇所あり、そのうちの4つは行った。残り4つも、いずれ行くつもりだ。

1月6日(金)曇り・晴れ

 ホテルを出て仙酔峡へ向かうが、路面が凍結しているので引き返し、大観峰から小国を通って日田へ抜ける。豆田町を散策して、蕎麦を食べる。土鈴などを買い、ひたすら大分自動車道を走って午後3時ごろに帰宅。

 夜は気功のY先生のお宅に呼ばれて新年会。いつも夫婦でお呼びいただくのだが、今回は家内は失礼してぼくだけお邪魔する。毎回、先生の手料理でおもてなしを受ける。こう書くと女性のようだが、先生の下の名前は「嘉彦」で、れっきとした男性である。料理の腕前はプロ並み。しかもレパートリーが広い。一度食べたものは、レシピを見なくてもたいてい作れるという。勘がいいのである。

 先生のご出身は札幌で、年末年始は実家に帰り母上の世話をされてきたそうだ。そんなわけで、今日はホタルイカ、ホタテなど、北海道の食材をふんだんに使った献立である。北海道風のお雑煮(高野豆腐が入るのが独特だ)もご馳走になり、11時ごろまで楽しく歓談。

1月7日(土)曇り

 少し風邪気味だが、午後は東区剣道連盟の稽古はじめに参加する。7段の先生方に相手をしてもらい、はりきって稽古をする。一時間汗を流して爽快な気分だ。

 夜はDVDでジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』を観る。ほとんどメルヘンやファンタジーの世界だが、ぼくは大好き。それにしてもジョニー・デップ、『ギルバート・グレイプ』とはまったく違う役柄だけど、巧いなあ。

1月8日(日)晴れ・曇り

 父が熱を出して外泊ができなかったので、午後から家内と長男と三人で施設に見舞う。ぼくが軽い体操をさせようとすると、あちこち痛いと言って嫌がる。仕方ないので、肩と首のマッサージだけにしておいた。近くの志賀島をドライブして帰る。

 夜は友人のO先生を招いて新年会。ぼくは長いあいだ、彼の塾で講師をさせてもらっていた。小説が売れず、いちばん苦しかった時期の恩人だ。小柄だが、空手で国体に出たことがあり、腕っ節がめっぽう強い。それで腕白の中学生たちもおとなしくなってしまうのだ。息子たちは兄貴のように慕っている。またO先生も、息子たちを気にかけてくれ、今日も忙しいのに時間をつくって来てくれた。ありがたいことである。