⑩『メイン・ストリートのならず者』

レコードのある風景
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 このアルバムが発売されたのは一九七二年、ぼくが中学二年生のときだった。彼らにとっては、はじめての二枚組だ。発売前から評判の高かったアルバムで、ぼくもできればほしかった。しかし三千円という出費は、中学生にとっては取り返しのつかない額なので、買う前にずいぶん迷った。聴いてみてつまらなかったらどうしよう。そのときは「面白い」と思えるまで聴き込んで、無理やり元を取るしかないな。

 1972年は連合赤軍の年だった。浅間山荘の銃撃戦にはじまった事件は、山岳ベースからつぎつぎと遺体が掘り出されるリンチ殺人へと発展していく。事件の経緯は、連日テレビや新聞で報道されたため、政治的な事情に疎い中学生にも、強烈な印象を与えた。そんな時代に発売されたのが、『メイン・ストリートのならず者』だったのである。ぼくの頭のなかでは、邦題の「ならず者」が、どうしても連合赤軍のメンバーたちと重なってしまうのだった。

 暗い世相のなか、悲壮な決意で買ったレコードだったが、ぼくは一発で、このレコードが大好きになった。ます一曲目の「ロック・オフ」が素晴らしい。イントロのかっこよさでは、ストーンズの全曲のなかでも一、二を争うだろう。そのあとも言うことなしの歌と演奏がつづく。とくにスリム・ハーポやロバート・ジョンスンの見事なカバーを聴くと、彼らが当時、まだ三十歳前の若者であったことに、あらためて驚かされる。

 レコードでは四面、それぞれ微妙に色合いが変わる。とくにB面は、リラックスした雰囲気のアコースティック・サイドになっている。また二枚目が、キースの「ハッピー」ではじまるのもよかった。彼がリード・ヴォーカルをとる曲は、それまでにも「ユー・ガット・ザ・シルバー」があったけれど、シングル・カットされたせいもあり、この曲からという印象が強い。他にも「ダイスをころがせ」がヒット。スコセッシの撮った映画のタイトルになった「シャイン・ア・ライト」も、このアルバムに収録されている。

 フリークスの写真をコラージュした白黒のジャケットは、どこか危ない臭いを漂わせながらインパクトがあった。この前が、ウォーホルがデザインした『スティッキー・フィンガーズ』。ビジュアル的にも、このころのストーンズは最高だった。ぼくの買ったアルバムには、おまけにポストカードが付いていたが、これはうれしいようなうれしくないような、ビミョーなものだった。(2012年4月)