⑨『サウンド・オブ・サイレンス』

レコードのある風景
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 ロックを意識的に聴きはじめたのは中学一年生のとき。最初に買ったレコードはヴェンチャーズのEP盤だった。「バットマンのテーマ」「蜜の味」などが入っていた。他にもヴェンチャーズのシングルは何枚か買った。入学祝に買ってもらったフォーク・ギターで、指に豆をつくりながら「パイプライン」「ダイヤモンドヘッド」のテケテケを練習したなあ。

 つぎに買ったのがサイモン&ガーファンクルのシングル。そのころヒットしていた「アメリカ」という曲が気に入った。つぎが「コンドルは飛んで行く」で、B面の「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」は、いまでも彼らの作品のなかでいちばん好きな曲だ。

 こんな具合にシングルを何枚か買ったけれど、オリジナル・アルバムは一枚も持っていない。彼らのアルバムをちゃんと聴いたのはCDになってから。中学一年生の秋に二枚組のベスト盤を買って、それで満足してしまったのである。

 当時は、日本のレコード会社が独自に編集した「グレイテスト・ヒッツ」の類がいろいろと出ていた。アーティスト側もうるさいことを言ってこなかったのだろう。まさに椀飯振舞と言うべき、いまから考えると信じられないようなブツが出まわっていた。ぼくが持っていたサイモン&ガーファンクルも、なかなかのスグレモノだった。

 彼らのオリジナル・アルバムは『サウンド・オブ・サイレンス』『パセリ・セイジ・ローズマリー・アンド・タイム』『ブックエンズ』『明日に架ける橋』と、実質的には四枚と考えていい。それぞれをレコードのA面からD面に割り振ると、理想的な二枚組のベスト・アルバムになる。しかもお値段は三千円。何枚もアルバムを揃えられない中学生にとっては、大変ありがたかった。

 『サウンド・オブ・サイレンス』はタイトル曲のヒットにあわせて発売されたもの。当時のトレンドだったフォーク・ロック調にアレンジされた曲と、サイモンの弾き語りを主体とした曲がバランスよく収められている。とくに「木の葉は緑」「キャシーの歌」「四月になれば彼女は」などは、若いポール・サイモンのみずみずしい傑作と言っていいだろう。

 その後、彼らは『卒業』『ブックエンズ』『明日に架ける橋』と、連続して三枚のアルバムを全米チャート一位に送り込み、まさにアメリカの一時代を象徴するグループへと成長していく。(2012年3月)