レコードのある風景……⑧『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン

レコードのある風景
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 ジャズのレコードを集める楽しみの一つはジャケットにある。ロックやクラシックのアルバムとは明らかにテイストが異なる。

 たとえばブルー・ノートのジャケット・デザインの特徴は、まず単色であること。これは低予算による制約だろう。つぎにミュージシャンの写真(とくに演奏中のショット)の多用。女性のポートレートや風景写真ではジャズっぽくならない。逆に60年代後半からは、意図的にそういう素材を使って、既成のジャズのイメージを覆すようなデザインが増えてくる。(CTIが典型ですね。)三番目の特徴は、大胆なレイアウト。あまり美しくない男の写真、しかもモノトーンとなれば、レイアウトにでも凝るしかない。こうした制約のなかで、リード・マイルズのデザイン感覚が生きてくる。

 傑作が多いブルー・ノートのジャケット。そのなかでも、ぼくがいちばん好きなのが、今回取り上げた『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン』である。「ゴールデン・サークル」というのはストックホルムにあるクラブの名前。ストックホルムといえば、マイルズ・デイヴィスの演奏で有名な「ディア・オールド・ストックホルム」という曲がある。北欧の民謡をスタン・ゲッツがアレンジしたものだ。そのゲッツにも、ストックホルムでのライブ盤がある。モダン・ジャズが盛んなところなのだろう。

 北の国から届いたアルバムということで、雪深い木立のなかに三人の男が輪(サークル)になって立っている。中央がコールマン、左のサングラス男がベースのデイヴィッド・アイゼンソン、右側の黒人がドラムスのチャールズ・モフェットである。このアングル、絶妙だと思いませんか? どことなくコミカル。まるでおとぎの国から出てきた、三人の小悪党といったおもむき。いつものように写真はフランシス・ウルフ。プロデュースも彼である。さすがにアルフレッド・ライオンは忙しくて、スウェーデンまで出張する時間がなかったのだろう。録音も現地のエンジニアが担当し、ミキシングをルディ・ヴァン・ゲルダーが手がける。

 1965年の録音だが、オーネットのアルト・サックスは、音といいフレージングといい時代を超越している。だからルー・リードやジョー・ヘンリーのアルバムで吹いてもまったく違和感がない。ちゃんとロックの音になっている。まさにジャズ史上最高のアルト・サックス奏者と言っていいだろう。(2012年2月)