レコードのある風景……⑤

レコードのある風景
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⑤『クール・ストラッティン』

 それまでロック一筋だったぼくは、大学に入ってからジャズを聴きはじめた。きっかけはトム・ウェイツの『土曜の夜の恋人』だった気がする。他にも、ポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、ビリー・ジョエルなど、あのころ(七〇年代の後半)は、ぼくが身近に聴いていた人たちの作品のなかに、ジャズィーな音が増えていった。それらは後に「フュージョン」や「クロスオーバー」と呼ばれるようになる。

 彼らの作品ももちろん好きだったけれど、一方で、もっと本格的なジャズを聴いてみたい、と安アパートでスーパー・ニッカを飲みながら、生意気な大学生は考えた。『ミュージック・マガジン』に加えて、『スウィング・ジャーナル』を買いはじめたのも、そのころだ。最初にマイルズを集めた。それからコルトレーン、ソニー・ロリンズ、MJQ……というふうに、ビッグ・ネームを中心に集めていった。

 五十年代、六十年代のジャズのレコード・ジャケットには独特の雰囲気がある。レコード屋さんで一枚のアルバムを手に取る。それはレッド・ガーランドの『グルーヴィー』であったりする。あのゾクゾクする、どこかハードボイルドな感じは、他のジャンルのレコードにはないものだ。とりわけブルー・ノートのデザインにはしびれた。たとえばキャノンボール・アダレイの『サムシン・エルス』。黒のバック上に、ただタイトルとメンバーの名前を並べただけのジャケットが、なぜあんなにかっこいいのだろう。トニー・ウィリアムズの『スプリング』にしても、上四分の三がオレンジ色、下四分の一の白の上に、絶妙なポイントでタイトルとアーティストの名前が載っている。なんとも胸のすくデザイン。いったいどんな音が詰め込まれているのだろう、と一刻も早く聴きたい気持ちを抑えることができない。

 この『クール・ストラッティン』は、ある意味で、もっともブルー・ノートらしいアルバムではないだろうか。まずリーダーのソニー・クラークが、一時期はブルー・ノートのハウス・ピアニストと言ってもいい存在だった。リーダー作も、他のレーベルからはほとんど出ていない。アート・ファーマー(トランペット)にジャッキー・マクリーン(アルト・サックス)という、一期一会とも言うべきフロントの組み合わせは、いかにもアルフレッド・ライオンのひらめきを感じさせる。加えてフランシス・ウルフの写真に、リード・マイルズのデザイン。録音はもちろん、ルディ・ヴァン・ゲルダーである。(2011年11月)