まぐまぐ日記・2011年……(11)

まぐまぐ日記
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11月15日(火)晴れ

 小学館の菅原さんより解説をたのまれた、嶽本野ばらさんの『タイマ』を読みはじめる。この小説は、彼が大麻の不法所持で逮捕され、復帰しての第一作である。だから逮捕の体験を中心に書いてある。野ばらさんの小説を読むのは、これがはじめてだが、びっくりしたなあ。こんなにいいとは思わなかった。非常にモラリスティックな小説でもある。ぼくが考えようとしていることとも、重なる部分が多い気がする。じっくり読んでみるつもり。

 日本シリーズの第3戦。今日は4対2でホークスが勝つ。これでようやく1勝。なんとか名古屋で2勝して福岡へ帰って来てもらいたい。

11月16日(水)晴れ

 午後から大学の講義。今日は芥川龍之介について話す。芥川の作品はほとんどが短編だが、志賀直哉などの、いわゆる私小説とは違い、主題や中心が明快だ。結末もきっちりしている。もう一つ、芥川の作品の特徴は、誇張が多いということだ。わかりやすいとも言えるし、わざとらしいとも言える。それが彼を第一級の小説家とみなし難い理由だと思う。最晩年の作品、「歯車」や「或阿呆の一生」などになると、明らかに精神に変調を来していることが文章に現れている。昭和2年7月、多量の睡眠薬を飲んで自殺。享年35歳。若かったんだなあ。

 野ばらさんの小説では、カート・コバーンがかなり重要な役割を果たしている。彼がショットガンで自らを撃ち抜いて死んだのは27歳のとき。恋人だったコートニー・ラブの話も出てくる。それでこのところ、久しぶりにNirvanaの『Nevermind』を聴いている。当時は「グランジ・ロック」などと言われたものだが、いま聴くとかなりポップな印象だ。だから2000万枚も売れたのだろう。

 今日もホークス、2対1で勝つ。これで2勝2敗の五分だ。それにしても、連日こんな僅差の試合ばかりされると、観ている方も疲れる。

11月17日(木)晴れ・曇り

 今日は午後から、父が入所している老人保健施設で三ヵ月に一度の面談。どんなサービスを提供してもらっているか、職員から説明を受ける。毎回同じような内容だが、これは規則になっているらしい。父は夜間はオムツをしている。尿が出たときのパット交換を、スタッフがすぐにしてくれないというのが、目下、父にとっての最大の不満だ。ナースコールを押して待っているしかない身としては、辛いものがあるのだろうが、少ないスタッフで対応してもらっているので、無理も言えない。介護の問題は、当事者にとっては一々具体的なのだ。

 帰ってから、今年最後の芝刈り。夏場は毎週のように刈らないと見苦しいが、さすがにこの季節は芝も伸びず、芝刈りは二ヵ月ぶりくらいだ。芝生は気持ちがいいけれど、手入れが大変だ。

 ホークス、5対0で快勝。2連敗ではじまったシリーズ、逆に王手をかけてしまった。こうなれば、なんとしても日本一になってもらいたい。

11月18日(金)雨

 野ばらさんの『タイマ』の解説を書いてみる。これは一つのモラルをめぐる小説である、というのがぼくの読み方だ。そのモラルとは、「勝者にならない」ということである。絶対に勝者にならないという生き方を、積極的に選択すること。なんのためにか。「自由」でありつつけるためだ。自由であるためには、勝者になってはならない。だが、それだけでは不十分だ。もう一つ条件が必要なのだ。誰にも踏みにじられないこと。誰にも自分を踏みにじらせないこと。だからモラルを生きることは闘いなのだ。この小説とめぐり合えてよかったと思う。

 午後から市立美術館に「北京・故宮博物院展」を観に行く。紫禁城は去年、訪れる機会があった。すごく濃い霧がかかっていて、なんとも幻想的だった。后妃や宮女の娯楽やファッションなど、宮廷で生きた女性たちの生活習慣や風俗を甦らせる、というのが今回の展示モチーフらしい。加えて、宮廷の子どもたちの玩具や勉強道具なども展示してある。それにしても権力者というのは馬鹿げたものだ。たとえば西太后の70歳の誕生日を祝うために、24点もの豪華な食器をわざわざ作らせるなんて。70の婆さんが、そんなにいろいろ飲み喰いできるわけないだろう。

 福岡市美術館へ行ったときには、ぼくは時間の許すかぎり常設も観ることにしている。数は少ないけれど、ミロ、シャガール、ダリ、ビュッフェ、デルボー、フジタなどの作品が展示してある。美術館が収蔵しているものなので、無粋な柵もなく、展示室の照明も明るい。普段は鑑賞者も少ないので、間近から筆使いや絵具の重ね具合などを、心ゆくまで観察できる。

 日本シリーズ、今日は移動日で休み。世代によっても違うのだろうけれど、ぼくらからすると、日本シリーズというのは、やはり屋外球場で昼間にやってもらわないと気分が出ない。晩秋の空の下、勝負が決するころには日が暮れかけている……というのが、シリーズに独特の詩情をもたらしていた。大相撲もそうだけれど、かつては日本シリーズも紅白歌合戦も、全国民が楽しみにしている年中行事であり、一つの風物詩であった。

11月19日(土)曇り

 明日から6日間の予定でオーストラリアに行く。知り合いがケアンズの観光をアテンドしてくれた。その間、仕事ができないので、期日のあるものは今日のうちに片づけてしまう。この日記も、一週間はお休みである。

 今日は日本シリーズの第6戦。ホークス、2対1で敗れる。これで3勝3敗。明日は最終戦だ。どうなることやら。勝負がつくころには、ぼくは機上の人になっているはずだ。

11月20日(日)曇り

 今日から約一週間の予定でオーストラリアへ。午前中は、留守中に締め切りになる原稿を幾つか仕上げて送る。旅行中やまったく仕事をしないので、というかできないので、旅に出る前に片づけなければならないことがけっこう出てくる。とはいっても、そんなに幾つも連載を抱えているわけではないので、のんびりしたものだ。椎名誠のエッセーを読んでいると、彼は旅先でも原稿を書きつづけて、編集部に送っているようだ。大変だなあと思いつつ、やはり連載は極力引き受けまいと決意を新たにする。

 午後一時の新幹線で大阪へ。JRで関西空港へ移動して搭乗手続き。その際に、オーストラリアは観光ビザが必要だということがわかり、慌ててインターネットで手続きをする。登録料として20A$。搭乗開始までロビーで日本シリーズを観る。途中から、修学旅行に出かける男子高校生たちが集団でやって来て騒がしくなる。体育会系の先生が号令をかけている。なかなか大変そうだ。ホークスは満塁のチャンスに1点しか入れることができず、前途多難な展開。3回裏が終わったところでタイム・アウト。17時45分に飛行機に乗り込む。