まぐまぐ日記・2011年……(14)

まぐまぐ日記
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11月25日(金)曇り・晴れ

 今日はなんと午前3時半起床なのだ。熱気球に乗るためで、4時10分にバスがホテルまで来てピックアップしてくれる。ケアンズ近郊までバスで一時間ほど。牧場みたいなところで、三つの熱気球がスタンバイしている。このあたりはケアンズ市内と違って雨が少なく、一年のうち330日くらいは飛行できるらしい。20人ほど乗り込んで、さっそく空中散歩へ。熱気球に乗るのははじめて。かなりの高度になるが、動きがゆっくりしているせいか、とても気持ちいい。ガスバーナーを点火していないときは、ほとんど無音であるのもいい。眼下をカンガルーが飛び跳ねている。小高い山々の向こうにTrinity Bayが広がっている。約45分。空の散歩を満喫した。

 ホテルに戻って荷物の整理。10時にジャックさんが迎えに来て、空港まで車で送ってくれる。何から何まで、本当にお世話になりました。おかげでケアンズの自然を満喫しました。12時20分の便で日本へ。機内で数日間のケアンズ滞在のことを振り返る。自然と人間について、いろんなことを考えさせられた。たとえば自然保護のあり方について。そもそも自然を保護するという発想からして、人間の思い上がりではないだろうか。自然は人間に保護されることなど求めてはいない。ただ無暗に干渉されないことを望んでいるだけだ。ぼくたちにできるのは、控えめに自然を見守ることだけではないか。これについてはあらためて書きたい。

 たった数日間の滞在で、しかもケアンズという限られた場所で感じたことだから、オーストラリア全体に当てはまるかどうかわからないが、日本にくらべると、はるかに健全な国だなという印象をもった。たとえばオーストラリアの物価は意外と高い。とくに食材を含めて、食べ物はかなり高いという印象だ。それはオーストラリアの人たちのなかで、食料も資源も労働力も、できるだけ自分の国でまかなうという合意ができているからだろう。安い農産物を輸入する代わりに、少々高くても、自分の国でできたものを大切に消費する。自国民の労働を尊重すれば人件費は高くなるし、それが食べ物などの価格にも反映するのは当然だ。なんでも安い方がいいと考えている日本人は、根本のところで自然と人間を損ないつづけているのではないだろうか。このことについても、じっくり考えてみたい。

 日本時間の午後7時、関西空港着。近くのホテルにチェックイン。

11月26日(土)晴れ

 JRで大阪まで出て、高槻市に住んでいる長男と落ち合う。大阪周遊パスというのを買って、まずベイエリアへ。サンタマリアというクルーズ船に乗り、天保山の大観覧車に乗り、さらに咲洲庁舎のコスモタワー展望台に上り、難波まで戻って伝通寺横町から道頓堀、心斎橋筋商店街を散策。このあたり、若い人が多く、やたら活気がある。なんなんだ、このパワー? 新宿や渋谷などは、人は多いけれど、通りゆく人の顔がみんな暗い。若い人の顔も、なんとなく疲れている。ところがここは、表情が異様に明るいのだ。これが大阪人の、吉本のパワーなのか……よくわからないけれど、中国や韓国からの旅行者が多いのも、こうした活気を作り出している一因かもしれない。

 梅田駅近くのワインバーで夕食。長男はわりといける口だ。というか、かなり酒好きだ。う~ん、困ったものだ。各自、グラスで3~4杯ずつ飲んでお開き。ぼくと家内は新大阪から8時の新幹線で博多へ。午後11時半ごろ帰宅。最後の最後まで楽しい旅だった。

11月27日(日)晴れ・曇り

 ケアンズ滞在中の「まぐまぐ日記」を書く。細かいところをガイドブックなどで確認しながら書いていると、意外に時間がかかる。旅の疲れが出たのか、妻は風邪気味で調子が悪い。夜はフランク・キャプラの『我が家の楽園』を観る。いよいよジェームズ・スチュアートの登場である。若い! 戦後のヒッチコックの映画のイメージからすると別人みたいだ。

11月29日(火)晴れ

 中断していた小説、『愛についてなお語るべきこと』を再開。夕方、天神のTUTAYAで『エドガー・ソーテル物語』を買う。ここは海外文学の新刊が、刊行から1~2ヵ月後には古本として出ていることが多い。この本も書評を見て読みたかったもの。定価3990円が1750円だから、得をした気分。ぼくみたいな読者が多いから、出版社は大変なのだろう。

 午後7時より、中洲の「酒一番」にてフォトグラファーの小平さんと。この店は、ぼくが大学院生のころ、学生同士でよく来たところ。とにかく安かった。いまも安いし、料理は美味い。二階の座敷はゆったりしていて、いつまでいても追い出されない。とても居心地がいいのだ。それで小平さんがすっかり気に入ってしまい、最近はときどき来ている。今夜は、小平さんが声をかけた面々が7人ほど集まる。ぼく以外は、航空管制官、ケーキ屋さん、ビジネスマンなど、まったく脈絡のないメンバーなのが、いかにも小平人脈である。11時ごろまで、大いに盛り上がる。

11月30日(水)晴れ

 午前中、定期診断のために九大病院を受診。肝臓の持病をチェックするというのに、前夜は11時まで呑んでいた。でも幸い、血液検査の結果はすべて基準値内だった。

 午後は九産大の講義。今日は新感覚派で、主に横光利一について喋る。横光はもっと評価されていい作家だと思う。「春は馬車に乗って」などの短編もいいし、「機械」の文体は椎名誠(とくにSFもの)を先取りしている。ある意味、時代を超越した作家だと思う。

 今日は剣道教室が休みなので、ぼくの剣道の師であるH先生をお誘いして一献をもうける。ぼくが剣道をはじめたのは、息子たちのおかげだ。二人とも小学校入学と同時に剣道を習わせはじめた。その剣道教室の師範がH先生だった。場所は息子たちが通う小学校の体育館。そのころ住んでいたマンションからは、徒歩一分の距離だ。そんな便利さもあって、息子たちの送り迎えのついでに、よく稽古を見学していた。そのうち先生に勧められて、竹刀を握るようになったのである。息子たちが小学校や中学校で止めてしまったあとも、親父の方は熱心に剣道をつづけているというわけである。

 先生は福岡県警の特練時代に、何度も全日本選手権に出場しておられる。現役を引退してからも、ずっと警察で後進の指導にあたってこられた。いわばプロ中のプロである。本来なら、ぼくのような初心者が指導を仰げる人ではないのだ。そんな先生に、もう二十年近く剣道を教えてもらっている。ありがたいことである。