なお、この星の上に(53)

「わたしは人間はかわいそうな生き物だと思っています」風に漂うような声が聞こえてきた。 「あなたは誰ですか」健太郎はたずねた。 「野いちごです」と声は答えた。  それを聞いて少し安心した。人間も野いちごにまではひどいことを […]

なお、この星の上に(52)

「わたしにもひとこと言わせてください」   先ほどの発言を引き継いで別の声が語りはじめたとき、健太郎はやれやれと思った。とにかく早く終わってほしかった。しかし当分は終わりそうにない。眠りたいのに眠りに就けないような気分だ […]

なお、この星の上に(51)

「おれにも言わせてくれ」闇のなかから別の声がした。その声は、先ほどまでの声よりもずっと近くから聞こえてくるみたいだった。 「誰だ」 「おまえから誰何されるいわれはない」声の主は腹立たしげに答えた。 「人間ではないのだな」 […]

なお、この星の上に(50)

20  濃い霧のようなものが流れていた。その霧を手で払いながら進んだ。霧に覆われているため、目の前の景色ははっきりしない。森のなかを進んでいるみたいだった。ときどき近くに黒い樹影がぼんやり見えた。太陽は出ていないらしい。 […]

弔辞

 濱崎君、まさかこんなに早くお別れの言葉を述べる日が来るとは思ってもみませんでした。日記を見ると、ちょうと一年前に最初の知らせを受けています。長く医者をやってきた君らしく、膵臓癌のステージⅣbだとあっさり明かしてくれまし […]

19 今年は三十一回忌

 「夏の日の恋」でおなじみのパーシー・フェイス。ジャンルでいうとムード・ミュージックやイージー・リスニングといったくくりになるかと思う。しかしヨーロッパ音楽からはじまり、ミュージカル、ラテン、映画音楽、さらに晩年にはキー […]

なお、この星の上に(49)

 青白く光る草原を駆けていた。いつか美しい茶色の馬を見た芒の草原だ。風に乗って駆けているみたいだった。大空を飛んでいる気分だった。日差しが弾ける。草花が匂い立つ。空が草原にばらまかれている。ふと横を見ると、先ほど健太郎に […]

なお、この星の上に(48)

 家に帰る道すがら、健太郎は猟銃の手入れをする父の姿を思い起こしていた。そばに息子がいることも忘れたかのように、自分だけの思いに深く入り込んでいた。重く沈んだ物腰は、そのまま戦地に赴いた過去につながっていきそうだった。実 […]

なお、この星の上に(47)

19  山狩りの計画は綿密に立てられた。どの区域を狩るか。そこに本当に野犬が潜伏しているのか。何人かの猟師たちが山に入り、野犬たちの残した痕跡を調べることになった。足跡や糞、野犬たちが襲ったと思われる動物の死骸、さらには […]