kkatayama

創作

骨笛

少年は毎日、日が暮れると海辺に転がっている流木を集めて火を焚いた。荒波に洗われた木は、樹皮が削り取られて白い幹がむき出しになっていた。それは海に棲む巨大な生物の白骨を想わせた。漁船の燃料に使う油を、家の者に内緒で瓶に詰めて持ってきていた。細...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第2回 まぼろし

『源氏物語』は最愛の人の死からはじまります。ときの帝は一人の更衣を溺愛している。更衣は身分の低い妃で、寝殿は内裏のなかでも北東の端(淑景舎)にあります。別名桐壷と呼ばれることから、この薄幸の更衣は桐壷更衣、彼女を愛した帝は桐壷帝と呼ばれるこ...
往復書簡

往復書簡・コロナ禍のなかで(1)

森崎茂様。第一信  書簡、ありがとうございます。さっそく応答のかたちで第二信をさしあげます。これを書いているさなか、日本でもいよいよ三回目の接種がはじまりそうな流れになってきました。デルタ株が出てきて過去二回のワクチンが効かなくなったから必...
源氏物語講義

現代文学として『源氏物語』を読む……第1回

『源氏物語』は54巻(帖)よりなる主人公・光源氏を中心とした約70年の物語です。光源氏の一代記として読めば、第44巻の「雲隠れ」までは彼が生まれ、育ち、恋をし、流謫(須磨・明石に蟄居)と昇進(准太上天皇・39歳)を経験しながら、老いて死ぬ話...
往復書簡

歩く浄土278:情況論75-Live/COVID-19をめぐって「片山恭一vs森崎茂」往復書簡1

第一信・片山恭一様(2021年9月6日)     1 なにかとんでもないことが人類史の規模で起こっている気がします。この衝迫感の正体をつかみたいというのが片山さんに往復書簡を呼びかけたモチーフです。いまなにが起きているか。新しい世界システム...
ネコふんじゃった

71)ワールド・ミュージックへの扉

まだ「ワールド・ミュージック」などという言葉のないころから、ぼくにとってライ・クーダーは世界中の様々な音楽への扉を開いてくれた人だった。アメリカ音楽のルーツであるブルースやマウンテン・ミュージック(アパラチア山脈の周辺で発達した音楽)はもと...
ネコふんじゃった

70)秋の木漏れ日のなかで

グレイトフル・デッドは一九六五年にサンフランシスコで生まれたバンド。最初はワーロックスと名乗っていたらしい。このころの音源を聴くと、どこといって特徴のないブルース・バンドという印象を受ける。しかしながら、ときはドラッグ・カルチャーの隆盛期。...
ネコふんじゃった

69)ギターの国、ブラジルの至宝

ブラジルはギターの国だ。ボサ・ノヴァで活躍するのはもちろんのこと、サンバやショーロではカヴァッキーニョの呼ばれる四弦ギターが使われる。ルイス=ボンファ、ローリンド=アルメイダなど、広く名前を知られているギタリストも多い。 そんななかでも、バ...
ネコふんじゃった

68)UKレゲエ、最上の一枚

日本で本格的にレゲエが紹介されはじめた七十年代後半、ぼくがいちばん好きだったのはマトゥンビというイギリスのバンドだった。第二次大戦後、多くのジャマイカ人が労働者としてイギリスに渡った。レゲエが若者の支持を集めるようになった七十年代中ごろには...
ネコふんじゃった

67)レゲエがいちばんレゲエらしかったころ

三拍目にドラムスがアクセントを付け、二拍目と四拍目でギターやキーボードがしゃくり上げるようなリフを刻む。こうしたレゲエの基本的なリズムが確立されたのは、ボブ・マーレイ&ザ・ウェイラーズが『キャッチ・ザ・ファイヤー』を発表した一九七三年前後の...
ネコふんじゃった

66)みんな一人になった

中学生になって、いわゆる洋楽を聴きはじめたころ、ビートルズもサイモン&ガーファンクルもすでに解散していて、メンバーたちはそれぞれにソロ・アルバムを発表していた。グループやバンドというプレッシャーから解放されたせいか、ソロになってからの彼らの...
ネコふんじゃった

65)オルガンでボサ・ノヴァを

まず「レイン・フォーレスト」というアルバム・タイトルがいいですね。ジャケットの写真は温室でしょうか、熱帯の植物や鳥をあしらった演出が、そこはかとないエキゾチズムを醸し出します。演奏者の名前と並べて、少し小さな文字で「ブラジル・ナンバー・ワン...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(15)

4月9日(月)晴れ  午前中、「足音」を少し進めてから気功へ。今日は香椎宮にて外気功。桜はまだ残っている。境内の外れにいい場所を見つける。緩やかな斜面にソメイヨシノと枝垂れ桜が何本も生えており、その花がまさに満開だった。十人余りの生徒が、先...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(14)

4月2日(月)晴れ  「まぐまぐ」のエッセー。午前中、気功。  復興と再生。自明のことのように言われるけれど、そのために原発の再稼働や増税が必要なら、復興も再生もしなくていい、という意見も当然あるだろう。実感の伴わない、空疎な言葉で未来を語...
未分類

まぐまぐ日記・2012年……(13)

3月26日(月)晴れ  あいかわらず寒い。午前中、気功。小説に手を入れる。夕方、父を施設に送っていく。  そのあと天神にて、福岡ウォーカー編集長、秋吉さんの送別会。彼の人柄を反映して、たくさんの人が集まり、別れを惜しみ、新しい門出を祝福した...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(12)

3月19日(月)曇り  今日は気功教室が休み。「永遠」を読み返して手を入れる。午後、父を施設へ送っていく。夜は剣道。  朝日新聞の吉本隆明の追悼文を高橋源一郎が書いている。それはいいのだけれど、ぼくは高橋の出現も含めて、吉本さんが消費資本主...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(11)

3月12日(月)晴れ  今日は寒い。「永遠」をつづける。午前中、気功。午後は歯科で、前回につづき歯垢を取ってもらう。今回はこれで終了。そのまま両親のマンションへ寄り、父に少しマッサージをほどこしてから、施設へ送っていく。夕方まで仕事をつづけ...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(10)

3月5日(月)雨  午前中、「劫火」を少しやってから気功。帰ってから夕方までつづけて、なんとか「劫火」の手直しを終える。夜は剣道。 3月6日(火)曇り  すでに書いたところへ「劫火」を組み込んでみる。全体の構成はこんな具合になる。『愛につい...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(9)

2月27日(月)曇り・晴れ  昨日に引きつづき「木霊」に手を入れる。まだ見通しが立たない。時間切れで気功教室へ出かける。  午後は父が入所している施設の定期面談。これは三ヵ月に一度、担当者よりケアプランなどの説明を受けるものだ。今日は久しぶ...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(8)

2月20日(月)曇り・晴れ  午前中は気功。2月から大極杓気功といのをやっている。文字通り長さ30センチほどの杓を使った気功である。大極棒気功というのもあり、これはもっと太い棒を使う。そのため少し武術的な香りが強くなる。いずれも気功の場合、...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(7)

2月14日(火)雨  気分が載らないので、小説は棚上げにして『アクリート』のエッセーを書く。これは愛媛新聞が毎月、購読者に配っている小冊子で、ぼくの連載は4年目に入る。新年度の連載タイトルは「雨ニモ負ケズ」とした。こういう時代なので、少しで...
ネコふんじゃった

64)世界でいちばん好きな曲

古今東西、あらゆるジャンルのなかでいちばん好きな曲は何か。ベートーヴェンの『英雄』、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」といったところが、すぐに思い浮かぶが、今日の気分としては、カーペンターズの「遥かなる影」と答えたい。  いい曲、いい...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(6)

2月6日(月)曇り  午前中、気功。帰ってから小説を進める。また行き詰まっている。予定していた展開に疑問が出てきたのだ。主人公たちの身に起こる出来事で、いかに人類の滅亡を暗示するか。いいアイデアが浮かばない。  内田樹・中沢新一『日本の文脈...
レコードのある風景

⑫ザ・スタイル・カウンシル『カフェ・ブリュ』

ぼくが福岡へやって来たのは一九七七年、大学へ入学した年だった。市街電車はまだ走っていた。地下鉄の工事中で、貝塚から天神へ向かう道は混雑がひどかった。  学生時代を思い返し、いちばん愛着のある街は、やはり親不幸通りのあたりだ。当時の親不幸通り...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(5)

1月30日(月)晴れ  今日は暖かくていい天気。午前中、気功。風邪はほぼ回復したようだ。気功の考え方では、風邪は季節の変わり目に身体の調律をするために引くものとされる。だから上手に風邪を引いて、短期間に経過させることが好ましい。間違っても風...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(4)

1月23日(月)曇り・晴れ  午前中、気功。いまは冬の土用の時期である。「用」は動くという意味。地面が動く。そうやって、新しい季節への準備をする。心身の調律にとっても大切な時期である。そんな話をY先生はされていた。  あいかわらずシモーヌ・...
ネコふんじゃった

63)たまには現代曲を聴いてみる

このCDを買ったのは、キース・ジャレット(ピアノ)とギドン・クレーメル(ヴァイオリン)という気になるミュージシャンが共演しているから。しかし聴き進むうちに、演奏者もさることながら、これらの作品の作者に大きな魅力をおぼえはじめていた。  アル...
レコードのある風景

⑪アート・ペッパー『ミート・ザ・リズム・セクション』

いまの若い人たちは、どんなふうにしてジャズを聴きはじめるのだろう。きっとぼくたちのころとくらべて、ずっと自由に、いろんな切り口から新旧のジャズを聴いているのだろうと想像される。  ぼくがジャズを聴きはじめたのは七十年代半ば、そのころはもっと...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(3)

1月16日(月)曇り  午前中、気功。午後は次男を迎えに空港へ。夕方まで仕事をして夜は剣道。いくら日記とはいえ、こんなことを書いても面白くないなあ。  昨日のセンター試験で問題の配布ミス。今朝の『朝日新聞』の見出しは「人生がかかっているのに...
レコードのある風景

⑩『メイン・ストリートのならず者』

このアルバムが発売されたのは一九七二年、ぼくが中学二年生のときだった。彼らにとっては、はじめての二枚組だ。発売前から評判の高かったアルバムで、ぼくもできればほしかった。しかし三千円という出費は、中学生にとっては取り返しのつかない額なので、買...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(2)

1月9日(月)曇り  午前中、今年最初の気功。祭日だというのに、教室は休みではないのだ。Y先生も生徒のみなさんも、やる気満々である。  午後から大阪へ帰る長男を、家族で博多駅まで見送る。途中、マリンメッセの前を通ったら、成人式に出席した若者...
あれも聴きたい、これも聴きたい

あれも聴きたい、これも聴きたい……⑧

フィル・スペクターの10曲  お待たせしました。お待ちになっていないかもしれないけれど、フィル・スペクターのベスト10を発表させてもらいます。選曲していて思ったんだけど、よほどへそ曲がりな選び方をしないかぎり、半分くらいは重なるんじゃないか...
レコードのある風景

⑨『サウンド・オブ・サイレンス』

ロックを意識的に聴きはじめたのは中学一年生のとき。最初に買ったレコードはヴェンチャーズのEP盤だった。「バットマンのテーマ」「蜜の味」などが入っていた。他にもヴェンチャーズのシングルは何枚か買った。入学祝に買ってもらったフォーク・ギターで、...
レコードのある風景

レコードのある風景……⑧『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン

ジャズのレコードを集める楽しみの一つはジャケットにある。ロックやクラシックのアルバムとは明らかにテイストが異なる。  たとえばブルー・ノートのジャケット・デザインの特徴は、まず単色であること。これは低予算による制約だろう。つぎにミュージシャ...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2012年……(1)

1月1日(日)曇り  家族四人揃ってお雑煮を食べ、新年を祝う。昼は施設に入っている父を一時帰宅させ、神奈川から来ている妹たちも揃い、みんなで簡単な食事。ぼくのところが息子二人、妹のところは一男二女、五人の孫が揃うことはめったにないので、両親...
レコードのある風景

レコードのある風景……⑦

⑦『ゴルトベルク変奏曲』  もう二十年くらい前になるだろうか。ある日、突然ピアノに目覚めた。独学でハノンなどの教則本にも取り組んだけれど、なんといっても弾きたかったのはバッハだ。それでゼンオンの『クラヴィーア小曲集』という、いちばん簡単なバ...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2011年……(18)

12月22日(木)曇り  冬型の天気で寒くなった。夕方から天神に出て、TUTAYAで古本を買う。今日は鶴見俊輔・小田実『オリジンから考える』(岩波書店)、吉本隆明・江藤淳『文学と非文学の倫理』(中央公論社)、中島義道『悪への自由』(勁草書房...
レコードのある風景

レコードのある風景……⑥

⑥『ワン・マン・ドッグ』  デビュー当時のジェイムズ・テイラーのかっこよさは、現在の彼からはちょっと想像するのが難しい。音楽的にはブランクもなく、常にクオリティの高い作品を発表しつづけている人だが、どこか神経質そうで、孤独な影をまとった初期...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2011年……(17)

12月14日(水)曇り  午前中、小説を書いて、午後から九州産業大学で講義。今日は太宰治について話す。好きな作家なので、こっちもノリノリである。珍しく時間が足りなくなった。たとえば「走れメロス」の最後の場面、読むたびに感動して胸がいっぱいに...
まぐまぐ日記

まぐまぐ日記・2011年……(16)

12月7日(水)曇り・雨  午前中は小説を書き、午後は九産大にて講義。今日は小林多喜二を中心にプロレタリア文学について話す。いまの学生たちは、マルクス主義についてどのくらい理解があるのだろう? 昭和の初期、日本の文学者たちにとってマルクス主...