なお、この星の上に(36)

16  町では火事が相次いでいた。どれも不審火とみなされていた。おそらく同じ犯人だろう。古い記憶が掘り起こされた。祖母が子どもだったころの話だ。無籍無宿のまま漂泊生活をしている者たちを、村の人たちは「山乞食」と呼んで蔑ん […]

小説のために(第五話)

1  しばらく前から谷川俊太郎の詩集を、気が向いたときにぱらぱらとめくっている。このエッセーでは「眼差し」について書いてきたが、この詩人の作品にも「視線」や「眼差し」について触れたものが多い。集中的に読んでいるわけではな […]

21世紀の自由・平等・友愛

 森崎茂さんとつづけている連続討議が4年目に入った。二週間に一度、熊本と福岡を行ったり来たりして、コーヒーを飲みながら2時間ほど集中的に話をする。男二人、色気のないこと甚だしい。そんなことを丸3年もやっている。お互いよく […]

なお、この星の上に(35)

 草の上に踏み跡がついていた。ほとんど人が通らない道が森のほうへ延びている。どこへ向かっているのかわからなかった。この細い道は、少年だけが知っているのかもしれない、と健太郎は思った。目にする光景は一つひとつが見知ったもの […]

なお、この星の上に(34)

 人里離れたところにひっそりと建つ避病院は、まわりの自然と一つになってほとんど野生化しつつあった。隔離されていた病人の多くは、戦争中にどこかへ移送されたというが、村の人たちはそれについて多くを語りたがらなかった。とりわけ […]

なお、この星の上に(33)

15  翌日、午前中で学校が終わると、健太郎は急いで家に帰った。いつもは一緒に帰宅する新吾や武雄には声をかけなかった。靴箱のところで会った豊が、来週からは昭も学校へ来るそうだと言った。豊はそうした情報に聡かった。おそらく […]

なお、この星の上に(32)

 夜が明けるころには雨は上がっていた。日課の乳搾りのために表に出ると、地面の土は濡れてさえいない。不審に思って朝食のときにたずねてみた。 「雨か?」母親は怪訝な顔をした。 「降らんかったか」 「降ってくれるとええのやがな […]

なお、この星の上に(31)

 家に帰ると、妹の綾子が「ガーグー」が捕まったと言った。夕食の時間だった。家族の全員が揃った食卓で、妹は健太郎に向けてその話を持ち出した。昭の家に火をつけた疑いだという。町の警察署から刑事が来て、ガーグーを引っ張っていっ […]

なお、この星の上に(30)

 翌日、学校が終わったあと、健太郎は昭の母親が入院している病院へ行ってみることにした。新吾や武雄は誘わなかった。なんとなく自分一人で行ったほうがいいような気がした。怪我の程度もわからない相手を見舞うことへの遠慮もあった。 […]

なお、この星の上に(29)

14  朝、学校へ行く途中で、誰かが火事の話をしていた。内藤の家が燃えたという。昭のところだ。健太郎は軽い胸騒ぎを覚えた。詳しい情報を得たかったが、通学路ではそれ以上のことはわからない。朝のひんやりした空気のなかに煙の匂 […]