この世界はどこへ向かっているのか? 大雑把な言い方をすれば、摩擦係数ゼロの世界へ向かっている。すなわち人とカネとモノと情報の流れを良くすること。貨幣でさえも、現在では流れを阻害する要因とみなされる。ドルやユーロや円があることで、世界経済の流れは滞る。だから電子マネーや仮想通貨(暗号資産)への転換が図られているのだろう。
人も阻害要因である。高齢者はその象徴である。先ごろのコロナ・パンデミックでは、露骨にそのことが現れた。アメリカ、イタリア、スペインなど、感染爆発によって医療崩壊が起こった国では、手遅れの患者には人工呼吸器をつけないというかたちでの「命の選択」がなされた。イタリアでは80歳以上の患者の治療を断念すると報じられた。トリアージの基準は年齢、つまり流れの悪さである。障がい者も同じ。表面的にはやさしい世界に向かっているように見えても、裏側では遺伝子診断などによる出生前の排除が進んでいる。
流れの阻害要因としての高齢者や障がい者は、いずれ人間そのものに拡大されるだろう。人間こそ、現行の世界にとって最大の阻害要因である。まず人間には個性とか自我といったものがある。一人ひとりが意思や感情をもっている。そんなものはいらない。無視してしまおう。医療の現場はすでにそうなっている。これを世界的に展開しようというのが、現在のワクチン接種である。一人ひとりの意思や感情を消してしまうところまで、重症化などウイルス感染の脅威と、あわせてワクチン接種の有効性が喧伝される。
こうして人はまず家畜になっていく。人間よりも家畜のほうが従順で扱いやすいからだ。つまり摩擦係数が小さい。もちろん先方も、「おまえら、今日から家畜になれ」とは言わない。口当たりのいい言葉には注意しよう。たとえば中学生の作文問題にも出るSDGs。貧困をなくそう、飢餓をゼロに、すべての人に健康と福祉を、質の高い教育をみんなに、ジェンダーの平等を実現しよう、人や国の不平等をなくそう……と口当たりはいいけれど、見方をかえれば、全人類をリソースにしようということだ。人とカネとモノと情報の流れを良くすることと、きれいにリンクしている。
なぜ、こうしたことが世界の一大潮流になっているのか? 肥大しつづける経済を延命させるために、他に方法がないからだ。金持ちには充分に行き渡り、いまや飽和状態にある。この先は貧しい人や食べられない人を相手に商売をするしかない。耕作地や地下資源などの天然自然にも伸びしろはない。あとは海洋か宇宙か、とりわけ人体である。なんといって手近で開発費用がかからない。というわけで、人間の心と身体が新たな「自然」になる。この未開の自然を存分に利用するために、みなさんには人間以外のものになってもらわなければならない。まずは家畜に、つぎは意思や感情をもたない人体に、最終的には遺伝子や分子といった物質に。
この流れを支えているのが科学である。数学・物理学を中心とした合理的思考である。合理的思考とは、扱う対象を計量できるもの、数値化できるものだけに絞るということである。だから神秘体験みたいなのは真っ先に排除される。魂も計測計量できないからダメ。精神領域のうち、記憶や言葉や感情といった、ごく一部が脳に置き換えられ、脳の機能として説明される。
扱う対象を数値化できるもの、コンピュータやAIが計算できるものだけに絞ったために、科学は異常な発達を遂げた。それは藤井聡太君が将棋の世界で恐るべき進化を遂げたのと同じだ。異常に、異様に発達した科学や医学によって、いまや人間は消えていこうとしている。(2025.2.19)
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