ネコふんじゃった

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18 ベスト盤についての一考察

レコードからCDになって、ベスト盤がつまらなくなった、と感じているのは私だけだろうか。かつてLPの時代には、ベスト盤の名盤がたくさんあった。サイモン&ガーファンクルの『グレイテスト・ヒッツ』やジョン・レノンの『シェイヴド・フィッシュ』は、ア...
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17 世界でいちばん美しいCD

アルゾ。本名アルフレッド・アフランティ。ニューヨーク生まれの彼は、十代のころからグリニッジ・ヴィレッジのカフェなどで音楽的なキャリアを積んでいく。様々な困難を乗り越えて、ようやくデビュー・アルバムの発売にこぎつけたのが一九七二年のこと。しか...
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16 カットアウト盤を探し歩いた日々

いまの人たちには馴染みがないかもしれないが、以前はカットアウト盤といって、廃盤などになったレコードをわざと傷つけ、ディスカウント商品として流通させる仕組みがあった。その名のとおり、ジャケットの片隅が少し切り取られている。なかには切れ込みを入...
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15 プロレスラーじゃありません

深夜、人気のない裏通りでけっして出会いたくないミュージシャン、それがアーロン・ネヴィルだ。不幸にして出会ってしまったら、目を合わさないようにして、できるだけ素早く通り過ぎてしまいたい相手、それがアーロン・ネヴィルだ。いくらにっこり笑いかけて...
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14 ボブ・ジェームスはココアの味

両親が共働きだったので、小学校から帰ってくると、おやつは自分で作ることが多かった。電子レンジのない時代で、ホットケーキなんかもフライパンでせっせと焼いていた。それからココアね。純正ココアとグラニュー糖をよく混ぜ、熱湯を少し加えてペースト状に...
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13 もちろん、明日も愛している

ぼくぐらいの歳(年が明けると四十八です)になると、気に入ったアルバムをいろんなディスクで何枚も持っている、ということがだんだん増えてくる。キャロル・キングのこのアルバムも、最初はLPレコードでずっと聴いていた。それから初代のCD、ボーナス曲...
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12 天才たちの青春賦

季節が冬に向かう時期、朝起きてまず、このCDをかける。一曲目の「ブライト・サイズ・ライフ」を聴くと、今日もいいことがありそうな気がする。いや、今日もいい一日にしようと思う。  パット・メセニーとジャコ・パストリアス。二人の若き天才ミュージシ...
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11 セピア色のビーチ・ボーイズ

手ごわいバンドである。なかなか一筋縄ではいかない。三十枚近いオリジナル・アルバムのなかに、駄作は一枚もない。どのアルバムにも、ちゃんと聴きどころがある。このアルバムは十五枚目だから、ちょうと折り返しということになる。デビューから六年、セール...
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10 いつかはジョアン・ジルベルトのように

年に数回、仕事で東京へ行くことがある。出版社が近いので、たいてい一日は、御茶ノ水から神保町の界隈をうろうろする。あのあたりって、どうしてカレー屋と楽器店が多いのだろう。過日、そんな中古楽器店の一つにふらりと足を踏み入れた。スペイン製のクラシ...
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9 地球にやさしいショーターのサックス

農学部の学生だったぼくたちは、三年生の夏に北海道研修旅行があった。帯広で乳牛に蹴飛ばされたり、中標津あたりで道産子に追いかけられたり、札幌でラーメンまみれの食生活を送ったりして、ぼくはすっかりスケールの大きな人間となり、髪も髭も伸び放題、ワ...
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8 岡倉天心もびっくり、一期一会の音楽

その昔、ジャズ・クルセイダーズというバンドがありました。ジュニア・ハイスクール仲間だった四人がバンドを結成したのは一九五二年といいますから、とんでもない昔です。七十年代はじめ、バンド名をシンプルに「クルセイダーズ」と改め、ファンクやR&B色...
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7 音の飛ぶ「ペグ」を聴いていたころ

学生のころ、同じ下宿に財前君という友だちが住んでいた。二人ともロックが好きだったので、新しいレコードを買うと、お互いに貸したり借りたりしていた。借りたレコードはテープに録音して楽しむ、というのが一つのスタイルだった。あと、FMラジオからのエ...
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6 トム・ジョビンは白湯の味?

一年半ほど前から気功の教室に通っている。ぼくが教わっている先生のモットーは、「無理をしない、がんばらない」という、間違っても校訓などにはならないような代物だ。そんなところも自分には合っていると思うので、案外長つづきしそうな気がしている。  ...
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5 グールドの演奏する小さなバッハ

いちばん好きな楽器はピアノ。だからクラシックとジャズを問わず、ピアニストたちのCDはたくさん持っている。なかでもグレン・グールドのバッハは特別だ。どんなふうに特別かというと……。  本を出版するまでの行程の一つに、校正という作業がある。ぼく...
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4 春には花の苗を植えて

今年の冬は寒さが厳しく、雪もたくさん降ったりして、なかなか手ごわかった。梅も水仙も、例年にくらべて開花が遅れているとか。でも三月を過ぎると、さすがに暖かい日も増えてくる。朝六時ごろに起きてカーテンをあける。東の空が白っぽく明るんでいる。その...
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3 ポール・サイモンとフランク・ロイド・ライト

中学一年生のときに、はじめてサイモン&ガーファンクルのシングルを買った。「コンドルは飛んで行く」だったと思う。いや、「バイ・バイ・ラブ」だったかな。どちらかのB面が「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」で、ぼくはこの曲がすっかり気に入ってし...
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2 曇りのち晴れ、ときどきネコ

飼い猫の名前は「ヒース」、と聞いて「ああ、『嵐が丘』か」と思われたあなた、するどいけれどハズレです。出典は吉田秋生さんの『カリフォルニア物語』。  一歳半のアメリカン・ショートヘア(♂)で、幼少のころは名前にふさわしく、なかなかに凛々しい顔...
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1 冬の夜はビル・エヴァンスを聴きながら

朝は六時から七時のあいだに起きて、ヨーグルトと季節の果物と豆乳の朝食、コーヒーを淹れ、まずはCDを一枚。これで心身の状態がわかる。コーヒーが美味しく、聴きたいCDがすぐに見つかる日は調子がいい。八時ごろから仕事をはじめ、十時に緑茶を淹れて一...