49 一瞬のアイコン

ネコふんじゃった
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 高校を卒業するまで住んでいた街には、レコード屋が二軒あった。中学二年生の秋、これら二つの店に、突如として巨大なポスターが現れた。しかも店内のあちこちに、中吊り広告のように何枚も吊るしてある。それがこのT・レックス、『スライダー』のポスターだった。

 なんともインパクトのあるジャケットだ。フォーカスの甘い白黒写真。男なのか女なのかわからない怪しげな風貌。一度見たら忘れられない。裏面は、同じ構図で背中から撮ったもの。レコード屋に吊るしてあったポスターも、ジャケットと同じように両面印刷の凝ったものだった。撮影はビートルズをやめたばかりのリンゴ・スター。彼は『ボーン・トゥ・ブギー』というT・レックスの映画も制作している。

 ときは一九七二年。この年、T・レックス(マーク・ボラン)は初来日を果たす。武道館をはじめ、名古屋、大阪などで公演し、その模様はNHKテレビでも放送された。日本中にT・レックス旋風が巻き起こったように見えた。来日にあわせて、『スライダー』が発売される。ジャケットに負けず、内容も素晴しい。「メタル・グルー」や「テレグラム・サム」は日本でもヒット。他にもチャーミングで切ない曲がたくさん入っている。

 しかし華やかなときは長くはつづかなかった。翌年も彼らは来日するが、ほとんど話題にならなかった気がする。「三十歳まで生きられないだろう」と語っていたマーク・ボラン。彼が自動車事故で世を去ったのは、三十歳の誕生日の二週間前だった。(2009年11月)