43みんなメロウでシルキーだったころ

ネコふんじゃった
この記事は約2分で読めます。


 あのころ(というのは、ぼくが大学生だった七〇年代後半)、AORという呼び方はなかった。ソフト・アンド・メロウとかシティポップスなどと呼ばれていた。ちなみにAORは「アダルト・オリエンテッド・ロック」の略。ロックにジャズやソウルの要素をブレンドして洗練させたもの、といったところか。

 一九七六年にボズ・スキャッグスが発表した『シルク・ディグリーズ』は、AORというジャンルが誕生するきっかけになった重要な一枚と言えるだろう。そこから「ロウダウン」「ハーバーライト」「ウィアー・オール・アローン」といった曲がヒットしたことにより、イメージが定着したのではなかったか。

 この『ダウン・トゥ・ゼン・レフト』は、『シルク・ディグリーズ』の翌年に発表されたもの。あいかわらず黒のスーツにサングラスでキメているボズさんだが、もともと彼はデュアン・オールマンとブルースをやっていた人。その後、ソウル色の強いアルバムなどを経て、突然、メロウでシルキーに変身したのだった。とはいえ、『シルク』にはちゃんとR&Bっぽいところが残っていたし、この『レフト』も、洗練されてはいるが、根っこにあるのはソウル・ミュージックだ。そのあたりの頑固さ(というか不器用さ)が魅力の、ボズさんです。

 マイケル・オマーティアンをアレンジャーに起用、LAの腕利きミュージシャンがバックを固める。なかでも前作につづいて参加の、ジェフ・ポーカロ(ドラムス)が素晴らしい。(2009年5月)