雪雲が低く垂れ込めた、寒い冬の日の午後、薄暗い部屋で本を読んでいると、どこからともなく、寂しくも懐かしいピアノの音色が聴こえてくる。エリントンの弾く「イン・ア・センチメンタル・ムード」のイントロだ。つぎはテナーサックス。一つ一つの音を慈しむように、コルトレーンが切ないメロディを吹きつづっていく。胸の奥が、少しずつ藍色に染まっていく。
そんなふうにして、年に何度か、このアルバムが無性に聴きたくなる。デューク・エリントンとジョン・コルトレーン。どういう経緯でこんな共演が実現したのだろう。名前だけを並べてみると、まったく接点のない組み合わせにも思える。二人が残した作品の傾向はずいぶん異なるし、歳は親子ほども離れている。ところがどっこい、生まれた作品は「歴史的名盤」と呼ぶにふさわしいもの。焼き物でいうところの「窯変」。ジャズという音楽には、どこか錬金術的なところがある。
この作品、端正な美しさという点では、数多いジャズ・アルバムのなかでも屈指のものではないか。アップテンポの曲も入っているが、作品全体を支配するのは落ち着いた、静謐なムード。まるで青の時代のピカソの絵のようだ。やはり相手がエリントン公爵ということもあってか、コルトレーンのアドリブも、いつになく繊細だ。けっして萎縮しているわけではなく、彼らしいフレーズを随所に繰り出しながら、節度を失っていない。そこが素晴らしい。これからジャズを聴こうという人にオススメです。(2009年1月)