4月9日(月)晴れ
午前中、「足音」を少し進めてから気功へ。今日は香椎宮にて外気功。桜はまだ残っている。境内の外れにいい場所を見つける。緩やかな斜面にソメイヨシノと枝垂れ桜が何本も生えており、その花がまさに満開だった。十人余りの生徒が、先生を取り囲むようにして立ち、簡単な準備体操をしたあと、見様見真似で「五禽戯」という気功に挑戦。風が吹くと桜の花びらが散る。思いきり美化して言うと、『源氏物語』の一場面みたいだ。終わってから、桜の木の下で注文しておいたお弁当を食べる。この新緑の季節、外でやる気功の気持ちよさは、筆舌に尽くし難い。
父を施設に送り、帰ってからペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』(同学社)を再読。『ベルリン 天使の詩』の脚本で有名なハントケだが、文学者としても一流だ。この小説は、ぼくの友人の元吉瑞枝さんが訳している。夜は剣道。
4月10日(火)曇り・雨
「足音」をつづける。古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)を読み終える。しばらく前に出た本で、かなり評判になったもの。
夜はタランティーノの『ジャッキー・ブラウン』を観る。とても面白い。『パルプ・フィクション』よりもいいのではないか。複雑なストーリーを巧みにさばいている。いつもながら音楽のセンスがいい。今回は70年代のソウルを中心に、かなりコアな選曲でその手のファンをうならせる。
つづいてアッバス・キアロスタミの『Ten』を観る。台詞が多いので、英語の字幕はちょっと辛い。車のなかに固定した一台のカメラだけで、90分余りの映画を撮ってしまうという思いきったアイデア。主人公は再婚した若い母親。小学生の息子を含めて、入れ替わり立ち替わり乗り合わせる人たちとの会話で全編が成り立っている。キアルタロミの作品はこれがはじめて。なかなか面白い映画だが、特殊な作りなので、彼の代表作とは言えないだろう。
4月11日(水)雨・曇り
午前中は「足音」。午後から九州産業大学へ。今日から新年度の講義がはじまる。100人ほどが受講してくれる。ありがたい。まあ、ぼくは単位にかんしては甘いので、情報が伝わっているのだろう。しかしながら、今年のぼくは一味違うぞ。まずアンケートをとり、授業に何を望むか、どんなことを学びたいか、どんな話を聞きたいかをたずねた。また今年度からは、レポートのテーマも自分たちで決めさせることにした。昨年は、こちらでテーマを設定したが、そうするとウィキペディアなどから適当に引き写したものが目立ち、読んでいてちっとも面白くなかった。今年は学生たちの自主性を重んじつつ、講師の省力化をはかる所存である。
矢部史郎『愛と暴力の現代思想』(青土社)を読む。この人の本ははじめてだが、なかなか面白い。ドゥルーズの読み込み方もいいと思った。つづけて同じ著者の『原子力都市』(以文社)も読む。こちらは軽い読み物風だが、文章のセンスがいい。夜は剣道。
4月12日(木)晴れ
「足音」。今日はかなりはかどる。沼野充義『世界は文学でできている』(光文社)。講義の参考文献として読んでいる。リービ英雄やロバート・キャンベルとの対話が面白い。キャンベルさんは昔、九州大学に在学しておられて、福岡でぼくと対談したことがあるんだけど、おぼえているかな? 当時は髪もふさふさで、なかなかかっこよかった。
夕方、庭の手入れ。そろそろ雑草に悩まされる季節だ。
4月13日(金)曇り
今日は早起きをして佐賀県の鹿島市へ。昨年、講演に呼んでくれた農協の女性部の人たちのご招待。今回は玉ねぎとトマトの収穫を体験させてくれるというのだ。ありがたい。小雨の降るなか、まずは玉ねぎを畑から引き抜いて、茎と根っこを挟みで切り落としていく。かなり重労働だ。つづいてビニールハウスのミニトマトをちぎる。こちらも手間がかかる。作業の手を休めて、ちぎったばかりのミニトマトを食べてみると、感動的なほど美味い。
昼はみんなでバーベキュー。収穫したばかりの玉ねぎの他に、地元産の野菜や牛肉を焼いて食べる。どれも美味い。ビールを飲んで盛り上がる。今回のご招待は、ぼくがふと漏らした一言がきっかけだった。農業については、あまりに知らないことばかりなので、機会があればいろいろ体験してみたい。やはり自分が食べているもののことぐらい、多少は知っておきたい。そんな願いをかなえてくださったわけだ。鹿島のみなさんの心づかい、本当にうれしい。これからも機会があれば出かけたいと思う。夕方まで長居をして、7時ごろ帰宅。疲れたので早く寝る。
4月13日(土)曇り・晴れ
午前中、女子剣道大会の応援に市民体育館へ。うちの道場からも、小学生、中学生、一般と、それぞれチームが出場している。成績はともかく、みなさんがんばっていた。午後から父を施設に迎えに行く。今日は剣道の稽古は休む。
夜はクリント・イーストウッド監督の『バード』を観る。チャーリー・パーカーの生涯を描いた作品。ジャズに造詣の深いイーストウッドらしく、音楽が素晴らしい。また、いつもながら映像が美しい。それとこの人は、演出が非常にこまやかだ。五分くらいのダイアローグを、30カットくらいに割っている。ものすごく丹念な編集を積み重ねて、一本の映画を作っているわけだ。プロの仕事である。
4月14日(日)晴れ
「足音」を進める。午後は両親のマンションで父にマッサージ。
夕方、車でナフコへ園芸用の土を買いに行き、帰りに木彫をやっている知り合いのアトリエに寄る。今日は一日だけ、アトリエを一般に公開しているのだ。動物を中心にした作品は、素朴で温かみがある。5月には東京で個展をひらくと言っていた。
夜は家族三人で香椎参道のイタリアン「隠れ家」へ。このあいだ通りかかりに見つけ、メニューをもらってきておいた。シェフ兼オーナーはイタリアで修行したあと、赤坂プリンス・ホテルで料理人をしていたらしい。北イタリアを中心とした料理は、どれも美味しい。とくに生麺を使ったイカスミのパスタは絶品だった。値段も手ごろだし、これからもたまに行きたいと思う。