かつてのバンド仲間だったニール・ヤングと、なにかにつけて比較されることの多かったスティーブン・スティルス。ぼくの贔屓はニール・ヤングだったけれど、才能があるのはスティルスだと思っていた。ギターもキーボードも上手いし、ハスキーな独特の声で、しかも当時はいまみたいに肥っておらず、髪はすでに寂しくなりかけていたが、ファッション・センスも良かった。
そのスティルスが一九七二年に結成したバンドがマナサス。これは短命に終わったバンドのデビュー・アルバム、といっても二作目はぱっとしなかったので、ほとんど唯一のアルバムという感じだ。傑作である。宝物である。一家に一枚と言わず、予備を含めて二枚でも三枚でも持っておきたい。
CDでは一枚だけれど、オリジナルは二枚組みだった。各面にそれぞれ、スティルスの多様な音楽性を反映するサブタイトルがついている。ロック、ブルース、カントリー、ラテンといったところが主な素材だが、それがスティルスという一人のミュージシャンのなかで消化され、さらにルーツを異にするメンバーたちの個性とブレンドされて、マナサスというバンドの音になっているところが素晴しい。
収められたナンバーは二十一曲。どの曲もかっこよくカラフルで楽しい。リリースは一九七三年、ロックがいちばん輝いていたころである。当時のアメリカには、こんないい音楽をやっている連中がいたのだ。ちなみに去年、ライノから秀逸なアウトテイク集が出た。(2010年2月)