ミルトン・ナシメントの名前をはじめて目にしたのは、ムーンライダーズの『ヌーヴェル・ヴァーグ』というアルバムに彼の曲が入っていたから。同じころ、ウェイン・ショーターの『ネイティブ・ダンサー』を聴いて、このブラジルのミュージシャンに興味を抱くようになった。
ナシメントの魅力は、なんといってもその声にあると思う。雄大な大地の広がりを感じさせる、おおらかで伸びやかな独特の雰囲気をもっている。このアルバムは、彼がCTIに残した傑作。ムーンライダーズが演っていた「トラベシア」は一曲目に入っている。アレンジャーに同郷のデオダートを向かえ、リズムセクションもブラジルのミュージシャンが固める。多くの曲にストリングスが加わり、何曲かでハービー・ハンコックやヒューバート・ロウズといったジャズ=フュージョン勢が活躍する。歌詞が英語の曲もある。
アルバムのコンセプトとしては、失敗していてもおかしくはなかった。ちょっと作り過ぎというか。しかしミルトンの声が、散漫で甘口になっていたかもしれないアルバムを、きりりと引き締めている。その声が入るだけで、どんなアレンジを施そうと、バックで誰が演奏していようと、彼の色に染まってしまう。とくに声量があるわけでも、飛びぬけて技量があるわけでもないのに、不思議である。
それにしても、一九七八年の時点でミルトン・ナシメントの曲を取り上げていたムーンライダーズというバンドも、すごいというかなんというか、やっぱりへんな人たちだなあ。(ミルトン・ナシメント『コーリッジ』 2009年9月)