44 気だるい夏の昼下がりに

ネコふんじゃった
この記事は約2分で読めます。

 七十年代、八十年代を通して、ブラジルのコンテンポラリー・ミュージックを牽引していくガル・コスタとカエターノ・ヴェローゾ。これは二人にとってのデビュー・アルバムにして、一期一会のデュエット・アルバム。録音は一九六七年、ガルは二十二歳、カエターノは二十五歳だった。

 タイトルの「ドミンゴ」は日曜日という意味。その名のとおり、気だるい休日の音楽ではある。基調となっているのはボサ・ノヴァ。でも明るくも、さわやかでもなく、どちらかというと内向的な雰囲気をもっているのは、当時のブラジルが軍事政権下にあったことも関係しているのだろうか。制作上の制約もあったのだろう。虚無的な装いのなかに、内に秘めた情念というか、静かな緊張感が顔を覗かせる。

 国内盤のオビには「ぼーっとしてたら終わっちゃうかも」と。たしかに似たようなテンポとトーンの曲がつづくので、全体に起伏がなく感じられるかもしれない。時間も三十分少々と短い。でも遠くでは、不穏な火が冷たく燃えている。波の静かな海面の下では、すでにいろんなことが起こりはじめている。このあとカエターノは、より自由な制作環境を求めてロンドンへ亡命する。そんな時代背景に思いをめぐらせながら聴くと、日曜日の別な表情が見えてくる。

 二人とも、いまなお現役。とくにカエターノは、息子がリーダーを務めるギターロックバンドを率いて、一時期よりも若返ったような作品を発表しつづけている。(2009年6月)