あれも聴きたい、これも聴きたい……②

あれも聴きたい、これも聴きたい
この記事は約3分で読めます。

2 ジョー・ヘンリーのいい仕事

 数えてみたら、去年買ったCDのなかに、ジョー・ヘンリーのプロデュースしたものが4枚もあった。アラン・トゥーサンの「The Bright Mississippi」、ランブリン・ジャック・エリオットの「A Stranger Here」、アーロン・ネヴィルの「I Know I’ve Been Changed」、それにモーズ・アリスンの「The Way Of The World」である。さらに本人の「Blood From Stars」を加えると5枚。いずれも2009年~2010年にかけて発売されたものだ。いまやジョー・ヘンリーは、ぼくにとってもっとも気になるミュージシャンと言っていい。

 最初に彼の名前を記憶にとめたのは、2005年に出た「I Believe To My Soul」という企画アルバムだった。アン・ピーブルズ、ビリー・プレストン、メイヴィス・ステイプルズ、アーマ・トーマス、アラン・トゥーサンという、曲者ばかりを集めたコンピレーション・アルバムをプロデュースしているのが、青白いインテリ然としたジョー・ヘンリーだった。いったい何者だろう。同じころに出た、「Our New Orleans」というハリケーン・カトリーナの被害を受けた人たちを支援するためのベネフィット・アルバムでも、アラン・トゥーサン、アーマ・トーマス、ダーティ・ダズン・ブラスバンドをプロデュースしている。ますます興味が湧いた。

 翌年にはエルヴィス・コステロとアラン・トゥーサンの共演アルバム「The River In Reverse」が出る。プロデュースは、やはりジョー・ヘンリーだ。そしてソロモン・バーグの「Don’t Give Up On Me」と聴いたとき、ぼくの彼にたいする評価は決定的なものになる。かのサザンソウルの大ベテランに、ダン・ペン、ヴァン・モリスン、トム・ウェイツ、ボブ・ディラン、ブライアン・ウィルソン、ニック・ロウといった人たちの曲をうたわせているのだ。この人選にはうなった。好みが、ぼくとぴったりだ。

 インターネットで調べてみると、1960年生まれというから、歳はぼくよりも一つ下だ。そんな彼が、77歳のランブリン・ジャック・エリオットをプロデュースする。しかもボブ・ディランにも影響を与えと言われる伝説のフォーク・シンガーに、あえて1930年代・大恐慌期のブルースをうたわせているのである。う~む、偉いなあ。あるいは半ば引退していた、82歳のモーズ・アリスンをスタジオに復帰させ、なんと12年ぶりの新作を録音させてしまう。ますます、偉いなあ。

 ジョー・ヘンリーの素晴らしいところは、どんなベテランをプロデュースしても、けっして懐古的にならないところだ。どのアルバムも、ちゃんと現在に通用する作品になっている。これまで彼のプロデュースしたアルバムをたくさん聴いてきたけれど、一枚もハズレがないというのは驚くべきことだ。加えて、音がいいのもオーディオ好きには嬉しいところ。

 一枚を挙げるとすれば、ベティ・ラヴェットの「I’ve Got My Own Hell To Raise」(2005)かな? 魂を揺さぶられるような歌がたっぷり詰まっている。シニアド・オコーナー、ルシンダ・ウィリアムズ、エイミー・マン、フィオナ・アップル……といった選曲も、し、しぶすぎる。録音は超優秀。本人の作品では2001年の「Scar」だろう。ピアノにブラッド・メルドー、オーネット・コールマンが何曲かでアルトを吹いている。(2011年2月)