プロコル・ハルムといえば、デビュー・シングル「青い影」のイメージだけで語られがちだけれど、ゲイリー・ブルッカーという才能あるコンポーザー&ヴォーカリストを中心に作り上げられたアルバムは、どれもクオリティが高く、聴きどころがいっぱいだ。
オルガンのマシュー・フィッシャーやギターのロビン・トロワーが在籍した初期の代表作が『ソルティ・ドッグ』(1969年)とすれば、1974年に発表された本アルバムは、後期の代表作と言えるだろう。この時期、オリジナル・メンバーはゲイリーの他にドラムスのBJ・ウィルソンだけになっているが、ピアノにオルガン、ベース、ドラム、ギターという楽器構成が変わらないせいもあって、「青い影」を演奏していたバンドが成長・変化してきたような印象を受ける。
もともとクラシック志向が強いバンドで、オーケストラやコーラスを導入した作品も何枚か残している。前作にあたる『グランド・ホテル』は、クラシックとロックを融合させた名盤として誉れが高い。このアルバムでは、そうしたシンフォニックなサウンドを五人のメンバーだけで作り上げている。ゲイリーの書く曲には、独特の翳りというか、哀愁があるが、それを抒情的に処理せずに、タイトで力強いバンド・サウンドにしているところが素晴らしい。
日本盤が発売されたときのタイトルは『幻想』だった。ジャケットの美しい絵は、ヤコブ・ボグダニという17世紀から18世紀にかけて活躍した画家のものだそうです。(2009年12月)