日本で本格的にレゲエが紹介されはじめた七十年代後半、ぼくがいちばん好きだったのはマトゥンビというイギリスのバンドだった。第二次大戦後、多くのジャマイカ人が労働者としてイギリスに渡った。レゲエが若者の支持を集めるようになった七十年代中ごろには、イギリスで生まれた移民二世を中心にして、たくさんのレゲエ・バンドが結成される。マトゥンビもそんなバンドの一つだった。
マトゥンビは二枚のアルバムを残してあっけなく解散してしまうが、その中核メンバーであったデニス・ボーヴェルは、自らのダブ・バンドを率いてのアルバム制作やプロデュース業など、現在に至るまで多彩な活動をつづけている。そんな彼の長い芸歴のなかでも最高の作品が、リントン・クウェシ・ジョンソン(以下LKJ)とのコラボレーションによる『ベース・カルチャー』ではないだろうか。
ダブ・ポエトリーという新しいジャンルを創造したLKJは、もともと詩人。ボーヴェルが作ったサウンド・トラックに、自作の詩を朗読して乗せるというアイデアから、この素晴らしいアルバムは生まれた。低くて落ち着いた声によるLKJの語り口は、なんともクールでかっこいい。レゲエのリズムと詩の朗読が、これほど見事な相乗効果をあげると、いったい誰が考えただろう。収録されている八曲、すべて詩の朗読だが、テンポや曲調に変化があって飽きさせない。ボーヴェルによるダブ的処理(音響効果)も、いつもながらきまっている。(2011年6月)