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28 ヒッチコックの映画

 あなたのいちばん好きな映画監督は? アルフレッド・ヒッチコックです。たしかに普段はフェリーニだのタルコフスキーだの、はたまたゴダールだのとスノッブなことを言っているけれど、正直なところ、彼らの映画をそうしょっちゅう観たいとは思わない。ただフェリーニとタルコフスキーにかんしては、ときどき無性に観たくなる。他の監督の作品ではだめで、どうしても彼らの映画でなければならない。別のもので代用できないところが、やっぱり芸術なのだろうと思う。とはいえ頻度は少ない。年に数回といったところだろうか。バッハの受難曲やワグナーの歌劇を聴くみたいなものだ。

 ゴダールの場合はまたちょっと趣が違っていて、一本の映画を最初から最後まで一度に観てしまうことはめったにない。だいたい30分か1時間も観れば充分だ。15分くらいで止めてしまうこともある。ゴダールの映画を観るということは、彼の映画の文体を味わうということで、文学でいえばプルーストや古井由吉を読むみたいな感じに近い。彼らの文体を堪能すれば、途中で本を閉じてしまっていいわけで、ゴダールの映画にも似たようなところがある。

 ヒッチコックの映画は毎日でも観たい。初期のものから最後の『ファミリー・プロット』までをローテンションで観つづけてもいい。そのくらい映画として面白いのだ。サイレント時代のものを含めると、生涯に監督した作品は50本くらいになると思う。ためしに、いまぼくの手元にあるDVDとブルーレイを年代順に並べてみよう。

1.三十九夜 ( The Thirty-Nine Steps ) 1935
2.バルカン超特急 ( The Lady Vanishes ) 1938
3.レベッカ ( Rebecca ) 1940
4.海外特派員 ( Foreign Correspondent ) 1940
5.断崖 ( Suspicion ) 1941
6.逃走迷路 ( Saboteur ) 1942
7.疑惑の影 ( Shadow Of Doubt ) 1943
8.白い恐怖 ( Spellbound ) 1945
9.汚名 ( Notorious ) 1946
10.ロープ ( Rope ) 1948
11.舞台恐怖症 ( Stage Fright ) 1950
12.見知らぬ乗客 ( Strangers On A Train ) 1951
13.私は告白する ( I Confess ) 1952
14.ダイヤルMを廻せ! ( Dial M For Murder ) 1954
15.裏窓 ( Rear Window ) 1954
16.泥棒成金 ( To Catch A Thief ) 1955
17.ハリーの災難 ( The Trouble With Harry ) 1956
18.知りすぎていた男 ( The Man Who Knew Too Much ) 1956
19.間違えられた男 ( The Wrong Man ) 1957
20.めまい ( Vertigo ) 1958
21.北北西に進路を取れ ( North By Northwest ) 1959
22.サイコ ( Psycho ) 1960
23.鳥 ( The Birds ) 1963
24.マーニー ( Marnie ) 1964
25.引き裂かれたカーテン ( Torn Curtain ) 1966
26.トパーズ ( Topaz ) 1969
27.フレンジー ( Frenzy ) 1971
28.ファミリー・プロット ( Family Plot ) 1976

 何本か抜けているかもしれないけれど、主要な作品はほぼ揃っていると思う。どうです、みなさん。どれも面白そうじゃありませんか。いや、実際に面白いのです。一作として駄作はありません。これだけで映画人生はやっていけそうです。ビートルズみたいなもので、この30本ほどの作品を死ぬまで繰り返し観つづけてもいいくらいです。

 では、ぼくのフェイバリットを3本選んでみよう。考え出すときりがないので直観でいきます。『汚名』『裏窓』『北北西に進路を取れ』。うん? 意外と普通だ。もちろん『汚名』のかわりに『疑惑の影』という選択肢もある。すると『裏窓』のピンチヒッターとして『ハリーの災難』が登場し、『北北西』をやめて『めまい』ということになる。ちょっと異色な『私は告白する』も捨てがたい。できれば『三十九夜』や『バルカン超特急』などイギリス時代の作品も入れたい。ほら、きりがなくなるでしょう。だから今日のところは『汚名』と『裏窓』と『北北西』なのだ。

 女優は誰だろう? 順当にいくとグレース・ケリーかな。『ダイヤルMを廻せ!』『裏窓』『泥棒成金』と3本連続の出演。個人的には『めまい』のキム・ノヴァクにいちばん魅力を感じる。『レベッカ』のジョーン・フォンテーンの可憐さも忘れられない。『北北西』のエヴァ・マリー・セイントも魅力的だが、ちょっとボンド・ガールみたいなところが玉に瑕。

 ヒッチコック映画の男優といえば、まずジェームズ・スチュワートだろう。『ロープ』『裏窓』『知りすぎていた男』『めまい』と多彩な役をこなしている。もちろんいい役者だけれど、ぼくの好みからいうと『断崖』『汚名』『泥棒成金』『北北西』のケーリー・グラントかな。『疑惑の影』のジョゼフ・コットンも素晴らしい。『第三の男』とは違った不気味な役を見事に演じている。『私は告白する』でのモンゴメリー・クリフトの瑞々しい演技も光る。

 というわけで、ヒッチコックの話は尽きません。また機会があればつづきをやりたいですね。今日はこれで、サヨナラ、サヨナラ。