小説のために

小説のために(第二十二話)

12  葛飾北斎の有名な「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」を見ていると、絵師がどこにいるのかわからなくなる。小舟に襲いかかる大波は、さながら水木しげるの描く妖怪のようだ。宙を舞う水飛沫は細かく砕かれた氷の塊といったところ。彼 […]

小説のために(第二十一話)

11  北朝鮮の危機を煽って、いらない武器をたくさん購入させる。癌は怖い病気ですからと早期発見・早期治療を啓発し、癌が見つかれば抗癌剤を投与する。高血圧やピロリ菌のリスクを訴えて、降圧剤を処方したり除菌を勧めたりする。同 […]

小説のために(第二十話)

10  ぼくたちはなぜ犬を飼ったり、猫をかわいがったりするのだろう。シアトルのあるアマゾン本社では、従業員は犬を連れて出勤することができるらしい。家に置いてきた飼い犬が気になって仕事に集中できないようでは困るということだ […]

小説のために(第十九話)

9  この宮沢賢治論も終盤に近づき、いよいよラストスパートというところで奈良へ行くことになった。前から入っていた仕事なので仕方がない。ついでに福井まで足を伸ばして5日間ほど中断。頭は宮沢賢治でホットな状態にあるから、四天 […]

小説のために(第十八話)

8  気功の先生によると、男の胸におっぱいがあるのは、男が女の身体を借りている証拠なんだって。言われてみればそうかも。無駄といえば無駄だし、過去も現在も未来も使い道はなさそうだ。ぼくたち男はお風呂に入るたびに自分の胸を見 […]

小説のために(第十七話)

7  『聖書』のなかでイエスは、「我よりも父または母を愛する者は、我に相応しからず。我よりも息子または娘を愛する者は、我に相応しからず」(「マタイ伝」10.37)と言っている。困ったことを言う人だなあ。家族よりも信仰を優 […]

小説のために(第十六話)

6  しばらく前にブレディみかこさんの『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)という本を読んだ。この本、タイトルはクラッシュですよね。それからカバーの写真が、バンクシーのグラフィティ「花を投ずるテロリスト」なんだ。かっこい […]

小説のために(第十五話)

5  いかなる生けるものでも苦しんでいる限り、自分らは完全に幸福とはなりえないと感じる。修行者ほどの徹底性はないにしても、これは誰のなかにも多かれ少なかれある感覚だろう。状況にもよるけれど、いくらか気持ちに余裕のあるとき […]

小説のために(第十四話)

4  宮沢賢治の「食」にかんするナイーブさについては、すでに語り尽くされた観がある。通常、それは「慈悲」のような仏教的な倫理観から解釈される。「性」にかんしても同じである。賢治には「生涯のうち、精液を体外に出したことがな […]

小説のために(第十三話)

3  解剖学者の三木成夫さんは、「原初の細胞ができてから後の、今日までの三十数億年の長い進化の過程を、なにか幻のごとく再現する、まことに不思議な世界」が「胎児の世界」であるとおっしゃっている(『生命とリズム』)。三十数億 […]

小説のために(第十二話)

2  少年は汽車に乗ってやってきた。ここは寂しい町の駅だ。客馬車が停まっている。少年は一人でとぼとぼと歩きはじめる。道のりは遠い。畑を通り、丘の裾を抜けて歩いていく。雲雀が鳴いている。ようやく農場の入口にたどり着く。看板 […]

小説のために(第十一話)

1   前から気になっている谷川俊太郎の詩に「ぱん」という作品がある。1988年に刊行された『いちねんせい』という詩集に入っている。このとき作者は56~57歳。50代半ばで「いちねんせい」。いいなあ。清々しい気持ちで読ん […]