これからみなさんと一緒に宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を鑑賞します。2時間くらいあるので、適当なところで止めて、その間にディスカッションを挟みながら観ていこうと思います。最後まで観られないかもしれませんが、それでもいいかなと思います。時間を気にせずに活発な発言を期待します。
一応、鑑賞の手引きとして、幾つかのポイントをあげてみました。こういうところに注目して観ると、あとから議論をしやすいかなと思います。できればメモを取りながら観てください。
1.冒頭の不気味な気配
・どういうところが不気味ですか? 細部を注意して見ましょう。
2.他の作品と比べる
・たとえば『となりのトトロ』と比べてみよう。『神隠し』のお父さんは、なんだかお腹が出ていぶくぶくしているよね。親も劣化したってことかな? もちろん日本人の食生活の変化もあります。細部にまで気を配っていることが、良い作品の条件です。
3.「油屋」ってどんなところ?
・お風呂屋さん、宴会場……他には?
・どんな人たちが働いている?
4.カオナシって何者?
・とにかくキャラが立ってるよね。でも何者なんだろう? 千尋にだけ見えているらしいし。不思議な存在だな。かなり怖い。ちょっと悲しくもある。喋れないしね。実在の人物では誰を連想するかな? 宮崎駿監督? おいおい……。
・作者はなぜ、こういうキャラクターを造形したんだろう。自由に考えてみよう。
5.着想の面白さ
・かつて豚を主人公にしてヒーローにしてしまった宮崎監督。この映画ではどういうアイデアが使われているかな。面白いと思ったところをチェックしておいてください。
・感動した場面、「いいな」と思った場面などもメモしておいてください。この映画を観て泣いた人、いる? カオナシのために泣いた? きみはいい人だ。
6.悪や暴力はどのように描かれているか
・これはかなり大きなテーマだと思う。ハリウッド映画(『ダイ・ハード』やスピルバーグの一連の映画など)とは描き方が違うよね。どんなふうに違うか、考えてみよう。
・具体的に、どういう場面に悪や暴力が出てくるかな? これもメモだ。
・「ドロドロ」に着目してみよう。宮崎アニメでは邪悪さを象徴しているものの一つ。他には?
7.逆に、善はどんなふうに描かれているだろう?
・善良さを体現していると思う人物(キャラクター)をチェックしておいてください。
・「小さいもの」に着目してください。
・神様はどんなふうに描かれている?
8.そして何が残った?
・映画を観たあとで、いちばん印象深く残っていること。場面でもいいし、テーマでもいいし、台詞でもいいし、キャラクターでも、なんでもいい。とにかく何か一つは見つけよう。
・この映画で「名前」がもつ意味について考えてみましょう。
ずいぶんいろんな注文を出しました。たまには分析的に映画を観るのもいいかなと思ってね。せっかくみんなで観るんだから。では上映します。
【次回の宿題】
戦争について考えます。つぎの三つの言葉について調べてきてください。
1.集団的自衛権
2.PKO
3.ルワンダの悲劇
2016.4.20(九州産業大学講義)