ぼく自身のための広告(23)

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23 小説のタイトルをめぐって

 小説のタイトルをきめるときはたいていもめる。すんなりきまったものは少ない。編集者が考えてくれたタイトルに変えることもある。作品を書くのはぼくだけれど、それを本という商品として市場へ送り出すのは編集者や出版社の人たちである。彼らの意見は尊重すべきだと思っている。装幀や帯について注文を出すこともない。パッケージについては、すべて先方に任せている。この機会に、これまでに出版した小説のタイトルを書き出してみよう。

●『きみの知らないところで世界は動く』←「水晶の舟」(新潮社、1995年)
○『ジョン・レノンを信じるな』(角川書店、1997年)
●『世界の中心で、愛をさけぶ』←「恋するソクラテス」(小学館、2001年)
○『満月の夜、モビイ・ディックが』(小学館、2002年)
○『空のレンズ』(ポプラ社、2003年)
○『もしも私が、そこにいるならば』(小学館、2003年)
○『雨の日のイルカたちは』(文藝春秋、2004年)
●『最後に咲く花』←「メンフィス・ブルース・アゲイン」(小学館、2005年)
○『船泊まりまで』(小学館、2006年)
○『壊れた光、雲の影』(文藝春秋、2007年)
○『遠ざかる家』(小学館、2008年)
○『宇宙を孕む風』(光文社、2008年)
○『静けさを残して鳥たちは』(文藝春秋、2010年)
○『愛について、なお語るべきこと』(小学館、2012年)
●『なにもないことが多すぎる』←「ブルーにこんがらがって」(小学館、2016年)
○『新しい鳥たち』(光文社、2016年)

 ○はぼくのタイトルが採用されたもの。●は編集者が考えてくれたタイトル。こうやって見ると12勝4敗だから勝率は悪くない。でも命の恩人ともいうべき『世界の中心で、愛をさけぶ』のタイトルが編集者によるものであることが、ぼくのなかではトラウマになっている。当初のタイトルは『恋するソクラテス』ですからね。これじゃあ売れなかっただろうな。アメリカで出ている英訳のタイトルは『Socrates in Love』になっていて、やっぱり売れていないようだ。

 それから「メンフィス・ブルース・アゲイン」と「ブルーにこんがらがって」、ボブ・ディランの曲名をタイトルにしたものが二つとも却下されているのも痛い。デビュー作のオリジナル・タイトル「水晶の舟」もドアーズだ。どうもロック系はよろしくないようです。すでにある曲のタイトルをもってくるところが安易なのかしら? 今回の『あなたが触れた』もタイトル変更を迫られそうだ。どういうタイトルになるのか、自分の本なのに他人まかせなのである。(2019.9.8)